著者 木寺英史
出版社 MCpress
お勧めの読者
日本の古流剣術の足さばきの技術を身に付けたい人、現代剣道の一般的な指導で身に付けた足さばきがしっくりしなくて、改善したい人
本書の概要
日本に元々あった、常歩剣術の足さばきを普段のトレーニングで少しずつ体を作りながら身に付けていく方法を解説しています。
本書の内容
常歩(二軸動作)を学んで体の使い方を変える
私たちが動くときに利用している力は2種類あり、一つ目は「内力」でこれは筋力のことである。二つ目は「外力」と呼ばれ地球(地面)が私たちを引っ張る力で重力のことである。
私たちは、普段1メートル先に一歩で移動するときに、片方の足を後方に蹴って移動する方法をとっていることが多い。この方法は、「内力(筋力)」に頼った移動方法である。
次は、立ったまま、前に倒れてみます。体を前傾させます。その時に両足の踵を上げないようにします。踵を接地したまま前に倒れて、これ以上はできないところまできたらどちらかの足を前に踏み出しています。この時は「外力(重力)」を使って前に進むことができます。
私たちが四股(手足)を動かすときには、合理的に動かすときに「体幹」の動きが伝わることで可能になります。「体幹」を上手く使えば四股を自由に動かすことができ、「体幹」の動きは左右の股関節と肩甲骨の動きによって導かれます。
私たちの体は体重がかかった側の腰・肩・腕が前方に動くようになっています。右重心では体の右側、左重心では左側全体が前に出ると安定します。「ナンバ」とは、この「半身動作」の原理を指しています。
常歩(二軸動作)とはなにか?
私たちの歩き方には2種類あります。一つ目は移動するときに、片方の支える足に重心を移して、静止して立った状態で体を安定させてから、支えている足を床を蹴って後ろに押すことで、前に移動する方法である。この方法は「内力(筋力)」を使った移動方法である。
二つ目は、支持点を重心をずらして「外力(重力)」を使って歩く方法である。私たちは普段緩やかな坂道を降りたり、段差の低い階段を下りたりするときに「外力(重力)」を使って歩行している場合が多い。「外力(重力)」を使っているときは、動作を続けていることのほうが楽になります。このことを動的安定といいます。
「常歩」の特徴は「外力」を利用して「動的安定」を作り出して左右軸を作り出して体全体を同方向に押し出すことに有ります。
立位で動作する時の支点を接地足側の足部であるととらえると、合理的に動作するためには接地足側の軸全体が同方向に動く必要があります。
左右の足が一直線上を乘るようにして歩く方法では、腰が大きく動きます。右足が前方に出ているときは右腰が前に、左足が出ていくときには左腰が前に動きます。腰がローリングします。この腰の動きでは、接地足側ではなく浮いて前に出ていく足(遊離)側の腰が前に出てきます。接地足側の軸を押し出す動きではありません。
二直線歩行
しかし、左右の足が二直線上を歩くと腰の回転が抑えられます。腰が安定します。これは接地足側の腰が前方に動く力が働いたために、腰の回転が抑えられています。
「外力(重力)」を使って、前方に倒れこんで一歩前に出る動きを、踵を上げた状態と踵を下ろした状態で試してみます。この時に、踵を下ろした状態のほうが、地面と体の傾きの角度が小さくなるので、前に進む重力が働いて、前に進むことが簡単になります。
踵を支持して前傾して一歩前に進めるときに、もう一つの動きを加えてみます。それは「膝を抜く」という動きです。
踵支持のまま、体を前傾させていきます。一歩踏み出す時に支持脚の膝をパッと曲げてみます。膝を曲げた瞬間に、体が加速して前進します。膝を抜くときに、同時に踵をさらに踏むようにします。この動作を何回も繰り返して体で覚えていきます。
次は体を前傾させないで垂直に立った状態から膝を抜いてみてください。膝を抜くと同時に踵を踏みます。すると、体をほぼ垂直に保ったまま「外力」を利用して素早く前進することができます。
常歩は左右軸を効率よく押し出す動きですが、そのときに外転・外旋を上手に使って動きます。
肩甲骨の使い方
常歩の時に、股関節とともに重要な働きがあるのが、肩甲骨で多くの人が、肩甲骨を背中側に寄せていてうまく使えていない。この状態を内方偏位と呼びます。
これに対して、肩甲骨を十分に機能させるためには外側に放たれた状態にする必要が有ります。それは、背中側の肩甲骨周辺や前面の胸鎖関節周辺の筋群が緩むことで可能になります。このような状態を肩甲骨の「外放」と呼びます。
ボールなどの、何かを押し出すときに効率よく力を加えるためには、上腕を「外旋」させることが大切です。
上腕を「外旋」させることで、肩甲骨を外放位置から体を押し出すポジションに移動することができます。上腕の外旋は大事な常歩の要素です。
常歩に適した体になるためのトレーニング
股関節ストレッチ
股関節の外旋状態を利用してセンターを確認する。両足を90度程度開脚して座る。同様に股関節を外旋させる。
その時に外旋しやすいほうのお尻の下に薄い坐布団などを敷く。その状態で股関節の外旋を試みると、左右対称に足元が開く。つま先が左右対称に開く位置を常に意識する。その位置をセンターという。
床に座って脚を90度ほど開きます。そして、膝を立てます。手は斜め後ろにつくようにします。そして、左右の膝を同方向に倒します。
股関節の外旋ストレッチは。長座で開脚をします。痛みを感じない程度に開く。膝を少し曲げて足首を伸ばします。そのまま、左右の脚を同時に外旋させます。この外旋ストレッチを何度も繰り返します。
最後に股関節ストレッチの仕上げを行います。開脚して体幹を前傾させます。体を前傾させるときに、両手で前方を押すような動作で行うようにします。自分のおへそを床に近づけるようにする。つまり骨盤を前傾させていきます。
股関節トレーニング
四股スクワット
両足を肩幅より広く開きます。つま先と膝をできるだけ外側に向けます。つま先と膝かしらの方向は一致させる。足の位置が決まったら、真っすぐ前を向いて、両手を前に上げます。
そのまま体幹を垂直に保ちながら腰を落としていきます。
体幹を垂直に保ったまま膝の角度が90度になるまで腰を落とします。
次に相撲の四股に挑戦します。重要なのは左右の股関節に重心を完全に残すようにします。
最初に「四股スクワット」の要領で腰を落とします。次に、左右どちらかの脚に体重を乗せます。股関節に重心が確実に乗ったことを確認して、反対側の脚を上げます。目線は立ち脚に落とします。立ち脚の膝は伸ばします。反対側の膝は多少曲がっていてもかまいません。少し静止してから上げた足を下ろすと同時に腰も落とします。両手は膝の上部に添えるようにします。
アヒル歩き
両足を肩幅程度に開いて腰を落とします。両手は膝の上に置きます。背中が丸くならないように、多少胸を張ります。そして接地足の膝を手で押すように進みます。接地足側の膝は地面に近づけるように動かします。踏み出す側の腰と肩が前に出るようにして歩きます。
肩甲骨のトレーニング
腕を振るという単純な動作で、肩甲骨の外放を身に付けていきます。両足を肩幅くらいに開きます。膝は少し曲げて、多少外を向くようにします。骨盤を前傾させます。前傾させるためには、お尻を少し後ろに引くようにします。その姿勢のまま、両腕を前後に振ります。肩甲骨から先の腕全体を前方に放り出すようにします。その時に腕の重さを感じるようにします。
両手を振り上げる時は、両肘を離す。すると手のひらが前方を向く。次に腕を肩の高さまで前方に放り投げるように下ろす。その時に、手のひらが元のように向かいあうように振り下ろします。
両肘が開き、手のひらが正面を向くようにして振り上げ、両手のひらが向かいあうように振り下ろします。これが上腕の外旋を用いた打突です。
体幹の柔軟性を高める
胸の開閉のトレーニング
最初に正座をする。左右の骨盤の高さが変わらないように足の指は重ねないようにする。両手は自然に膝の上に置くようにする。その状態で、体幹をそって胸を開きます。次に体幹をそって胸を開きます。次に体幹を丸めて胸を閉じます。胸を開くときは吸気を用い、胸を閉じる時は呼気を用いる。
体側を伸ばす、縮めるトレーニング
両足を肩幅に開いて立つ。最初に右手を上げる。その時に体重を完全に右足に乗せます。右側の肩甲骨と骨盤が、できるだけ離れるようにする。次は左足に完全に体重を乗せて左手を上げる。同じように左側の肩甲骨と骨盤を離します。
上級編
両足を肩幅に開いて立った状態から、右手を頭上に上げる。今度は右足ではなく左足に体重を乗せます。右足は浮かせる。体重がかかっている左側の肩甲骨と骨盤を近づける。反対側の右の肩甲骨と骨盤を離します。これを左右を入れ替えて5秒ずつおこなう。
常歩で立つ
外旋立ち
両足をおおよそ肩幅に開く。膝を少し曲げて骨盤を前傾させます。お尻を少し後ろに引くような感じにします。その骨盤の上に楽に上体を乗せます。腕はだらりと下げる。顎は弛めて、少し出す。骨盤を前傾させると自然と胸が張られる。胸ではなく胸鎖関節辺りを張る意識を持つ。横から見た場合、頭頂・肩の真ん中・大転子が垂直に並ぶのが理想的です。腰を引いて地面に対してほぼ垂直に立つようにする。
重心を落とす位置は、足底の踵とアウトエッジに足圧を感じるように立つ。
どうしても踵重心になりにくい人は、立禅の姿勢をとる。両足を肩幅よりもやや広く開く。つま先を30度ほど外に向ける。膝とつま先の方向を一致させる。骨盤を前傾させて腰を少し落とします。足底のアウトエッジに重心がかかるようにする。そのまま大きなボールを抱えるように両腕を上げていきます。足圧が踵に移動していきます。顎を少し前に出すようにします。ボールを抱えるように腕を上げることで、肩甲骨の外放を覚えることができます。この姿勢を3分程度維持します。
常歩で歩く
常歩歩行の動きと感覚を学ぶ。肩幅よりも広く両足を開く。腰を少し落とす。つま先と膝を外側に向けて股関節を外旋させる。両手を腰よりも少し高い位置に構える。上腕を外旋させて、手の指が少し外を向くようにします。その姿勢から、右足を一歩前にだして右手で押す動作をします。まず右足を前方に出して体重を十分にのせます。その後、右の腰・肩・手を前に押し出します。続けて左足を前に踏み出します。左足に体重が十分に乗ったら、同じ要領で左の腰・肩・手を前に押し出します。
すり足
「二直線歩行が原則で、肩幅程度に両足を開く。多少、つま先と膝を外側に向けます。その姿勢から、左足で体を支持し、右足を前方へ進めます。左足は踵で体を支えるようにします。反対側の右脚の膝を前に突き出すように上げる。右足の前進が終わり踵が床に接地したら、左足を前方に送り最初の姿勢に戻る。
常歩剣道を体得する
常歩で構える
骨盤の前傾と左踵
お尻を後ろに少しずつ突き出すようにしていくと、最も左踵が下がる骨盤の位置が有ります。その位置に腰を納めるようにする。
股関節の外旋
骨盤を前傾させた状態から、左足のつま先と膝を多少外に向けるようにする。柔軟性が高い人は30度程度開くようにする。つま先の向きと膝の向きを合わせる。
右自然体で構える
骨盤を正しい位置に収めて前傾させて、左の股関節を外旋させ、さらに両足の前後幅を一足長から半足長にかえる。
上腕を外旋させる
腕立て伏せで、逆ハの字に両手を構えて行うと、自然に脇が締まり、押すポジションになり、上腕が外旋する。肩甲骨が押すポジションになると、体を前進させたり何かを前方に押し出すときに、肩甲骨が体幹を押してくれる。
中心を強くするには
左手を緩めて、左上腕を外旋させて、体重を左足にかけます。さらに柔らかい操作を可能にするためには、中指を基準に握るようにする。中指を基準にするためには、親指が中指に触れる、または中指の上に乗るように持つ。振り上げ時は、小指を緩め、振り下ろすときには、小指を締めるようにする。
常歩で動く
前進する
右自然体の構えから、右軸をパッと抜く。すると、体は抜いた軸のほうに移動する。右軸を抜いたことにより、体を支える支持点と重心位置が水平方向にずれたことによって前進する。左踵で重心を支えて一歩前進をする。重心をスムーズに前進させるためには、膝から下を手前に引くようにして右ひざを前にだす。すると骨盤の前傾が保持されて楽に前進することができる。素早く前進させるためには左踵で支えると同時に左踵を抜く。抜くというのは一瞬でぱっと曲げるような感覚である。
後退する
右足の拇指球で体を支えると同時に、右ひざを抜く。一瞬で膝をパッと曲げる。重心から最も離れた部分で、体を支える。右足から前進するときは左の踵、左足から前進するときは右足のつま先が支持点になる。両膝を抜く操作を覚えると、右足からでも後退することができるようになります。
左右に動く
右に動かすときは左足の小指側全体で体を支える。小指側とは、小指から踵までの小指側全体でこの部分を足のアウトレッジとよびます。慣れたら、アウトレッジで体を支えると同時に左膝を一瞬曲げて抜きまs。そうすることで重心が右下方向に滑るように移動する。逆方向も同じ要領で行う。
体の向きを変える
右に90度体の向きを変える時、左のアウトレッジで体を支える。右足を移動させながら、右ひざを右90度方向に向ける。右股関節を外旋させるようにする。左も同じ要領で行う。振り返り動作をするときは、体幹よりも顔の向きを先に変えるようにする。
常歩で打つ
左股関節で腰を押し出す
構えから右足を前進させながら竹刀を振り上げ、左足を引き付けつつ振り下ろし、正面を打ちます。一般に一挙動の打ちといわれている打ち方です。構える時に左のつま先と膝を外に向ける。左の踵は接地させ、右足のつま先は少し浮くようにする。その状態から、右足を前進させて竹刀を振り上げるとともに、左の踵で体を支えるようにする。前進したときに左のつま先と膝を相手方向に向けずに斜め左に向けたままにします。すると、左の股関節が自然と左腰を押してくれます。
右膝を抜く
前進するときには、つま先を手前に引いて右膝を前方に突き出すようにします。足首を曲げるとつま先が前方を向く。
左膝を抜く
前進する体を左踵が支える時に、左の踵を一瞬屈曲させる。右足が前進を始めると同時に、外旋位に保った左の踵を踏みながら左膝を抜く。踵を踏んでいるので、足関節も屈曲することになる。
左足は前方に振り込まれる
常歩剣道の踏み込みを身に付けると、腸腰筋が引き延ばされて、その後の自然な収縮により、左足が前方へ切り返されるようになる。上達すると、さらに左足が素早く前方へ惹きつけられるようになります。
上腕の外旋で振り下ろす
竹刀を振り上げる時に両肘の間隔を開くようにする。
常歩を応用する
出頭面を打つ
左の踵で体を支え、多少上達したら左膝を抜くようにします。右足は自分の体の真下に踏むような感覚でする。すると、自然と左足は右足の前方に振り込まれる。
出頭小手を打つ
出頭小手は左右の軸をほぼ同時に抜いて打ちます。
右軸の構えから相小手面を打つ
相手の小手打ちに対して、真っすぐ左足・右足の順に足を踏み込んで小手・面を打ちます。
応じ技
面摺り上げ面
左軸の構えから、相手の打ちに対して表で摺り上げながら右足を斜め前方に出していきます。床に右足を接したまますり足で出ていきます。
左足を右足に引き付けながら面を打ちます。
面抜き胴
左軸の構えから右足・左足と歩み足で胴を打ちます。相手の面打ちを右足の斜め右前への前進で抜きます。後は、左足前進で胴を打ちます。面返し胴も右足・左足の歩み足で行う
右足から攻め込んで面を打つ
左踵を踏んで、左右の膝を抜くことで可能になります。左足の継いだ時の位置は関係ありません。
右足から攻め込んで左足で踏み込んで胴を打つ
右足から一歩攻め込んで、左足の踏み込みで胴を打てるようになる。右足・左足と歩み足で打ちます。逆胴で主に使われる。
左足から攻め込んで打つ
右の構えから左足を前に出して攻め込みます。右足の踏み込みで面を打つ。
常歩剣道の神髄とは
剣道に気功を取り入れること
毎日立禅を繰り返していると気の感覚が磨かれる
気力を充実させるためには、内力(筋力)を使わないで立つように心がける
気力を充実させるためには、内力(筋力)を使わないで立つように心がける
気力を出すためには、相手と融合して気を交流させることが大切
発声をすることで丹田が緩んで、気が養われる
気の交流を知れば、相手は自分にとってより親密な存在になります。相手と自分は同じ気を共有していることが、明確にわかるようになります。
総括
本書は内容が剣士なら知っておきたい「カラダ」のことという本と被るところがあります。2冊の内1冊を読めば、常歩剣道のことは理解できるようになりますが、両方を読むことでより理解が深まると考えられます。
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