五輪の書 火の巻

剣道関連の本

著者 宮本武蔵

お勧めの読者

剣道の技量を高めたい人、勝負強い人になりたい人、たくましさを身に付けたい人

本書の概要

本書は、「地、水、火、風、空」の五巻から構成されていて、本論は「地」「水」「火」の巻にまとめられています。地の巻では、二天一流を、水の巻では敵に勝つための自己鍛錬、火の巻では、勝負の種々様々な駆け引きを解説しています。風の巻では、他流の批判、空の巻では、体裁上の結語をくっつけただけである。

本書の内容

五輪書 火の巻

二刀一流の兵法では戦いを火の勢いと考え、戦や勝負の事を火の巻としてここに書き表す。

私の兵法では、数度の勝負に命を懸けて打ち合い、生死を分ける道理を理解し、刀の道を覚え、敵の打つ太刀の強弱を知り、太刀筋をわきまえ、敵を討ち果たす鍛錬をする。

独りで太刀をとっても、その敵達の知略を巡らせ、敵の強弱や手立てを知り、兵法の知徳をもって万人にも勝つところを極め、この道の達者となることは可能である。

いつかは極めようと確かに思い、朝鍛夕錬して磨きこめば、独り自由を得て、自ら奇特を得て、自由自在の神妙な力を得る。

場の次第ということ

  • 場取りの良否を見分ける際に気を付けることは、太陽を背にすることである。太陽を後ろに構えるとよい。
  • 座敷でも灯りを後ろか右脇にすることが重要です。
  • 後ろはつかえないようにし、左に空間があるようにして、右脇を詰めて構えるべきである。
  • 夜中で敵が見えるところには、火を後ろに置いて、あかりを右脇にすることが同様の心構えである。
  • 敵を見下ろすために、少しでも高い所で構えるよう心がけるべきである。座敷では上座が高い所と思うべきである。
  • 戦いになって敵を追い回す時は自分の左の方に追い回すべきである。
  • 難所へ敵をどのようにしても追い込むことが肝要である。
  • 難所で敵に場の状況を見せず、顔を振らせず、油断なく追い詰める心が必要である。
  • 座敷においても敷居、鴨居、戸障子、縁、柱などへ追い詰める際にも、敵に場の状況を見せてはいけない。
  • いずれにしても、敵を追いかける方は足場の悪いところ、または脇に障害物のあるところなど、場の特を用いて場の勝を得るという心を持つ必要が有ります。

三つの先ということ

  • 一つは自分から敵へ掛かる先で「懸の先」である
  • 自分が掛かろうと思う時には静かに居り、にわかに速く強く掛かり、底を残す心の先、自分の心をどのようにしても強くする。足は普段より少し速く、敵の傍らによって激しく攻め立てる。
  • また、心を放って、最初から最後まで敵をひしぐ気持ちを心の底まで強く持ち勝利する。

  • 敵から自分へ掛かってくる時の先として、「待の先」がある
  • 敵が自分の方へ掛かってくる時、少しもかまわず、弱いように見せかけ、敵が近づいていたら一気に強く離れて飛びつくように見せ、敵の弛みを見たらただちに強く勝つことがこの「待の先」である。
  • 敵が掛かってくる時、自分もなお強くなって出るとき、敵のかかる拍子が変わる間を受けて、そのまま勝ちを得る事が「待の先」の理である

  • 更に自分もかかり、敵もかかりあう時の先として「躰躰の先」というものが有ります。
  • 敵が速く掛かってきた時は自分は静かに強く掛かり、敵が近くなったら一気に思い切った身になり、敵の隙を見てすぐに強く打つ。
  • また、敵が静かに掛かってくる時は、自分の身を浮かせて少し速く掛かり、敵が近くなったら一揉みし、敵の色に従って強く勝つ事が「躰躰の先」である。

枕をおさえるということ

  • 枕を押さえるとは頭をあげさせないことである。
  • 枕を押さえるとは、私の実の道を得て敵に掛かりあう時、敵が何を考えていてもそれを察知し、敵の「打つ」のうの字を押さえて出鼻をくじき、後には何もさせない心である。
  • 自分は何事でも道に任せて技を重ねるうちに、敵が技をかけようと思う出鼻を押え、何事も役に立たないようにして敵を自由に引き回すところが兵法の達者である。

とをこすということ

人の世を渡る際に一大事に対して渡を越すと思う心が必要である。敵を知り、己を知り、その理をもって渡を越すことは、良い船頭が海路を越すのと同じである。渡りを越すということは敵の弱みを見つけ、自分が先手を取り、ほぼ勝つことができる。

けいきを知るということ

一体一で戦う兵法でも、敵の流派をわきまえ、相手の人柄を見受け、相手の強い所と弱い所を見つけ、敵の意表を突き、敵の調子の上下を知り、その間の拍子を十分知り、先に仕掛ける事が肝心である物事の景気とは、自分の知力が強ければ必ず見えるものである。

けんをふむということ

弓鉄砲を敵が打つ時から早く攻め込む心が必要である。早く攻め込む心があれば次を撃たせる事を防げる。物事において敵が仕掛けてくるのを、そのまま理を受けて敵のすることを踏みつける事が勝つ心である。

くずれを知るということ

大勢で戦う兵法でも敵の崩れる拍子を得て、そのすきを逃さず追い立てることが肝心である。敵の崩れるところを見逃すとその間に盛り返される場合が有ります。その崩れ目を突き、敵が元に戻らない内に確実に追いかけるところが肝心です。

敵になるということ

  • 敵になるとは、敵の身になって考えてみるということである。
  • 世の中を見ると、立てこもる盗人を強いとかんがえてしまいます。
  • しかし敵の身になれば、世の中のすべての人を敵をして逃げ込み追い詰められています。
  • 大勢の兵法でも、敵が強いと思うと積極的に攻撃しなくなります。
  • 丁度良い人数を揃え、兵法の道理をよく知り、敵に勝つをいう所を会得していれば気遣いをする必要がありません。

四手をはなすということ

  • 四手を離すとは、敵と自分が同じ心になり、張り合って戦いが膠着することを避けることである。
  • 張り合う心を捨てて、別の利で勝つことを知るべきである。
  • 早く四手の心を捨てて、敵の思いつかない行動で勝つべきである。

かげをうごかすということ

大勢で戦う兵法において、どうやっても敵の状勢が見分けられないときは、自分側から強く掛かるように見せて、敵の手の内を見るとよいです。敵の手立てが分かれば様々な方法で勝つことは容易である。

かげをおさえるということ

影を抑えるという事は、敵の方から仕掛けてきた時の方法である。大勢で戦う兵法では、敵が仕掛けてくる戦術を抑えつけて無力化する。その利で敵に強くでれば、敵は押されて敵の心は変わる。自分側も戦術を変えて、空の心をもって先手を取り、勝つことができる。

うつらかすということ

「うつる」ということは何事にもある。眠りなども移り、あくびもうつる。時もうつる。大勢で戦う兵法では、敵が浮足立ち、事を急いで弛んだ時に、自分側は少しも構わずにゆっくりとしていれば、敵の気は弛む。その気がうつったら、こちらは空の心で速く強く仕掛けて勝利を得る。

まかつかするということ

心を動かす物事がある。際どい心、無理をする心、思いもしない心である。よく吟味すべきだ。大勢で戦う兵法は心を動かす事が肝要である。敵の思いもしない所へ勢いよく攻め立て、敵の心が決まらず、こちらが有利なうちに先手をとり、仕掛けて勝つことが肝要である。

おびやかすということ

怯えるということは何事にもある思いもよらない事におびえることである。大勢で戦う兵法で敵を怯えさせることは目に見える事だけではない物の音で怯えさせたり、小さな力を大きく見せて怯えさせる。脇から不意に怯えさせることも重要である。その怯えた拍子を得た利で勝つべきである。

まぶるるということ

「まぶるる」という事は、敵と自分が至近距離で互いに強く張り合って、どうにでもならないとき、そのまま敵と一つに混ざり合って、混ざっているうちに利を得て勝つ心である。この心が肝心である。

かどにさわるということ

  • 角にさわるとは、物事を強く押すときにそのままでは押し込みにくい事である。
  • 大勢で戦う兵法は敵の人数を見て、張り出た所の角を責め、その利を得る事ができる、
  • 角が弱まるに従い、全体が弱まる。その弱まった内に角を攻めて勝利することができる。

うしろめかすということ

狼狽させるということは、敵に確かな心を持たせないようにすることである。大勢で戦う兵法において、戦場では敵の心を計り、自分達の兵法の知力をもって、敵の心を乱し、敵が狼狽するような心にさせる拍子を得て、確実に勝つ所をわきまえる事が大切である。

三つの声ということ

  • 三つの声というのは「初」「中」「後」の声といって三つに分かれる
  • 臨機応変に声をかける必要がある。
  • 声は勢いをつけるため、火事にもかけ、波風にもかける。
  • 声は勢力を見せるためでもある。
  • 大勢で戦う兵法では以下の三つである。
  • 戦いの初めは相手を威圧するようにだす。
  • 戦いの間は低く腹の底からだす。
  • 勝利した後は大きく強く声をだす。

また、敵を撃った後に声をかける事は勝利を示す声である。これを先後の声という。

まぎれるということ

まぎれるというのは大勢で戦う兵法では、人数が拮抗して敵が強い時、まぎれるといって、敵の一方に掛かり、敵が崩れれば打ち捨て、他の強い場所へ掛かる事である。大きく見れば葛折りのようである。独りの兵法で大勢の敵と戦うときはこの心が必要である。

ひしぐということ

「ひしぐ」とは例えば敵が弱いと分かり、自分達が強い場合は押しつぶすという心である。大勢で戦う兵法は敵が少人数であったり大勢であっても、敵が狼狽した弱みを見つけ、押しつぶすように最初から勢いで完全に打ちのめす心が必要である。押しつぶす力が弱ければ盛り返される。

さんかいのかわりということ

「山海の心」というのは、敵と自分が戦う中で同じ事をたびたび繰り返すのは悪いということである。同じ事を二度行うのはまだ良いが、三度行ってはいけない。敵に技を仕掛けて、一度用いてもだめだったら、もう一度やっても駄目である。全く違うことを唐突に仕掛けても上手くいかないときは、更に違う技を仕掛けるべきである。

そこをぬくということ

そこを抜くとは敵を戦う際に、兵法の道理をもって、上辺では自分が戦っているが、相手が敵愾心を持っているので心では勝っていないことである。この時、自分は心を変えて敵の心を絶やし、敵を心の底から負けさせることが大切である。この底を抜くということは、太刀でも身でも心でも抜くことがあります。

底から崩れた相手にはこちらの心を残す必要は無い。そうでないときは心を残さないといけない敵に残す心があると敵は崩れにくい。

あらたになるということ

新たになるという事は敵と自分が戦う時、もつれてどうにもいかなくなった際に、こちらは気を変えて、物事を新しく始めるような心持ちになり、その拍子で勝利する方法である。新たになるという事は、いつも敵と自分が軋むときに、自分の心を思いきり変えて勝つことである。

そとうごしゅということ

「舅頭牛首」とは敵と戦う中で互いに小競り合いをして、もつれる時に気を付ける事である。兵法の道は常に舅頭牛首と思って、細かい事に気を配り、大胆に行動することが大切である。平常の時も舅頭牛首と思う事が武士には肝心である。

しょうそつをしるということ

「将卒を知る」とはどのような戦いでも、自分の思うようになったら、この法則を使い兵法の知力を得ている事である。自分の敵であるものは、皆自分の支配下であると思って好きなようにできると心得て、敵に自由にさせない事を思う事が必要である。

つかをはなすということ

柄を離すというのは色々な心がある。刀が無くても勝つ心でもあり、太刀があっても勝たない心でもある。様々な心があるので書き付ける事ではない

いわおのみということ

巌の身とは兵法の道を得て、たちまち巌のようになり、万事に対しても当てられず、動かされずということである。

総括

火の巻では、主に戦いの場での、気持ちの持ち方や戦術が詳しく書かれています。

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