五輪の書 水の巻

剣道関連の本

著者 宮本武蔵

お勧めの読者

剣道の技量を高めたい人、勝負強い人になりたい人、たくましさを身に付けたい人

本書の概要

本書は、「地、水、火、風、空」の五巻から構成されていて、本論は「地」「水」「火」の巻にまとめられています。地の巻では、二天一流を、水の巻では敵に勝つための自己鍛錬、火の巻では、勝負の種々様々な駆け引きを解説しています。風の巻では、他流の批判、空の巻では、体裁上の結語をくっつけただけです。

本書の内容

五輪の書  水の巻

二天一流の心は水を基本にしています。

兵法の利において、一人と一人の勝負を書き付けた所も、万人と万人の合戦の利と同様に心得て、大局的に考えることが肝心です。

この書にある事を、わが身にとっての書きつけと心得て、見るだけや真似だけではなく、実践して心から利を見出すためには、常にその身になって、良く工夫をしないといけない。

兵法心持ちの事

  • 兵法の道において、心の持ちようは平常心とちがってはいけない。
  • 普段も、心を広く真っすぐにする
  • 緊張せず、少しも弛まず、心が偏らないように心を真ん中に置く。
  • 心を静かにゆるがせて、その揺るぎの瞬間も揺るぎが止まらないように吟味しないといけない。
  • 身体が大きかろうと小さかろうと、心をまっすぐにして我が身を贔屓しない心を持つことが肝要である。
  • 心の内が濁らず、広い所に知恵を置くべきである。
  • 知恵も心もひたすら磨いて、天下の利非をわきまえ、物事の善し悪しをしり、あらゆる芸能の道を渡り、世間の人にも少しも騙されないようにした後、兵法の知恵となる心が手に入る。
  • 兵法の知恵は、とりわけ真剣な鍛錬がいる。

兵法の身なりの事

身体の姿勢は以下のようにするように心がける

  • 顔を俯かない
  • 仰向かない
  • 傾かない
  • 歪まない
  • 目を乱さない
  • 額にしわを寄せない
  • 眉の間にしわを寄せない

  • 目玉を動かさないようにする
  • 瞬きをしないようにする
  • 目を少し細める
  • 穏やかに見える顔で鼻筋をまっすぐにする
  • 少し下顎を出す
  • 首の後ろの筋をまっすぐにして、うなじに力をいれる
  • 肩から下は全身と同じと思う。
  • 両肩を下げ、背筋をはり、尻を出さず、膝より足先まで力を入れ。腰を屈まないように腹を張る。

兵法の目付けということ

  • 目の付け所は大きく広くする。
  • 「みる」とは「観」「見」がある
  • 観の目は強く、見の目は弱くする。
  • 遠い所は近視眼的に見て、近い所は大局的に見る事が兵法の肝である。
  • 敵の太刀を知り、少しも敵の太刀を見ないということが兵法では大事である。
  • 目玉を動かさずに、両脇を見るようにする。

太刀の持ちようの事

  • 太刀の持ち方は親指と人差し指を若干浮かせ、中指は締めすぎず、緩めすぎず、薬指と小指を締める心を持つようにする。
  • 掌に緩みがあるのは悪い。
  • 敵を切るものと思って太刀をとるべきである。
  • 敵を切る時も、掌には変わりはなく、手がすくまないように持つべきである。
  • 全ての太刀も手も居つくことは避けるようにする。

足使いの事

  • 足の運び方は、つま先を少し浮かせて踵を強く踏むべきである。
  • 足使いは、場合によっては変わるが、常に歩くように心がける。
  • 跳び足、浮足、固着した足の3つはしてはいけない。
  • 兵法の道で大事なことは陰陽の足と呼ぶ。
  • 陰陽の足とは、片足ばかり動かさないことである。
  • 斬る時、引くとき、受ける時、すべて右左と踏む。

五方の構えの事

  • 五方の構え方とは、上段、中段、下段、右の脇、左の脇である。
  • 上段、中段、下段は本構えである。
  • 左右の構えは応用の構えである。
  • 中段は構え方の真意である。

太刀の道ということ

  • 太刀筋を知るということは、常に己の太刀を指二本でも、自由に振れるということである。
  • 太刀を速く振ろうとすることは太刀の道に背いているので良く振れない
  • 太刀は振りやすいように静かな心で振るようにする。
  • 太刀を打ち下げたら、上げやすいほうに上げ、横に振ったら元に戻し、大きく肘を伸ばして強く振る事が太刀の道である。

五つの基本の次第、第一の事

  • 第一の構えは中段である。
  • 太刀先を敵の顔へ向け、敵に出くわし、敵が太刀で打ちかかってくる時は、右で太刀を払う
  • 敵が更に打ちかかってくる時は、切っ先返しで打って、打ち落とした太刀はそのままにする。更に敵が打ちかかってくるなら、下から敵の手を打つ。

基本の第二の次第

  • 第二の太刀は上段に構え、敵を打つ時は一撃で打つとよい。敵を打ち外した太刀はそのままにして、敵が打ってくるのを下から上へ、すくい上げて打つ。
  • もう一度打つ時は同じことをする。

基本の第三の次第

  • 第三の構えは下段である。
  • 引き下げた心を持ち、敵が打ちかかってくるところを下から手を打つ。
  • 手を打つところを再び敵は狙ってくるので、この拍子を超えて敵を打ち、二の腕を横に切るとよい。
  • 下段で敵が打ってくるところを一撃で打ちとめることです。

基本の第四の次第

  • 第四の構えは左の脇に構えることである。
  • 敵が打ちかかってくる手を下から打つべきである。
  • 下から打つ自分の事を敵は打ち落とそうとする。
  • 敵の手を打つ心をもって、そのまま太刀筋を受け、自分の肩の上へ筋交いのように切るべきです。

基本の第五の次第

  • 第五の構えは太刀を自分の右の脇に構える事です。
  • 敵が打ちかかってくるところを受けて、己の太刀を下の横から筋交いのように上段に振り上げ、上から真っすぐに切るべきです。
  • この基本を振り慣れたら、重い太刀も自由に振ることができる。
  • 私の流派の太刀の道を知り、大抵の拍子を覚え、敵の太刀を見分けることができるように日ごろから腕を磨かなければならない。
  • これらを極めれば、敵を戦う中でも、太刀筋を熟知して、敵の心を受け、色々な拍子でどのようにも勝つことができる。

有構無構の教えの事

  • 有構無構というのは、太刀を構える事にとらわれてはいけないということである。
  • 太刀は敵の出方によって、所や景気に従って、どの方向に構えても敵を斬る心を持たないといけない。構えはあるようでなく、自由自在にするとよい。
  • 太刀をとったら、どのようにしても敵を斬るという心が必要である。
  • もし敵が斬りかかってくる太刀を、受ける、打つ、あたる、ねばる、さわるなどということがあったら、これらは敵を斬るきっかけであると心得る。
  • 受ける、打つ、あたる、ねばる、さわると思い考えると、敵を思いきり斬ることができなくなる。

敵を打つには一拍子の打ちの事

  • 敵を打つ拍子は一撃で打つ拍子があり、彼我の太刀が当たるほどの位置で敵の心構えができないうちに、自分は動かず、心もつけず、とても速く真っすぐに打つ拍子である。
  • 敵の太刀は、「引く」、「外す」、「打つ」と思う心が起きる前に打つ拍子であり、これは一拍子である。

二の腰の拍子の事

二の腰の拍子とは、自分は打ち出そうとするときよりも、敵が速く引いたり打ってくる場合、こちらが打つと見せかけて敵の一瞬の気の緩みを打ち、こちらが引いて敵が弛んだところを打つ。

無念無相の打ちということ

  • 敵が打ちこもうとして、自分も打ち込もうとするときは、身は打つ身となり、心も打つ心になるべきである。
  • 手はいつも通り、身は打つつもりで、心と太刀は残し、敵の気の間を空より打つ。

流水の打ちということ

  • 流水の打ちというのは、敵と競り合っているときに、敵が早く引こう、早く外そう、早く太刀を張り斥けようとするときに、自分は身も心も大きくすることである。
  • 太刀は我が身から遅れ、ゆっくりと川のよどみのように大きく強く打つとよい。

緑のあたりということ

こちらが打ち出すときに、敵が打ちとめよう、打ち斥けようとしてくる場合、自分は一気に頭も手も足も打つ。

石火のあたりということ

  • 石火のあたりとは、敵の太刀と自分の太刀を付き合って自分の太刀を少しも上げず、どんなことがあっても強く打つことである。
  • これは足も強く、手も強く足、身、手の三箇所を早く打つべきである。
  • これは良く鍛錬することで打てるようになる。

紅葉の打ちという事

  • 紅葉の打ちとは、敵の太刀を撃ち落し、太刀を取り直す心である。
  • 敵が目前で太刀を構えて、打つ、払う、受ける事をしようとするならば、自分の打つ心は無念無相の打ち、または石火の打ちで敵の太刀を強く打ち、そのまま敵の太刀に粘り強く離れないようにする。
  • 切っ先を下げようとするならば敵の太刀も必ず落ちる

太刀にかわる身ということ

  • 全ての敵を打つ時に、太刀と身を同時に打たないものである。
  • 敵の打つ縁によって、先に身を打つ身とし、太刀は身にかまわず打つ。
  • もし、身がそのままで、太刀だけで打つこともあるが、大抵身を先に打ち、太刀を後から打つことになる。

打つとあたるということ

  • 「打つ」という事と「当たる」ということは別である。
  • 打つという心は、どのように打っても思考して確かに打つことである。
  • あたるとは、進んで突き当たった心である。
  • 何にでも強くあたり、たちまち敵が死ぬくらいがあたるである。
  • 打つといえば心得て打つことである。
  • 敵の手でも足でもあたるということはまずあたる。
  • あたった後で、強く打つためである。
  • あたるとは触る程度の心であり、良く習えば格別なことが分かる。

秋猴の身ということ

  • 秋猴の身とは手を出さない心である。
  • 敵の間合いに入っても手を出す心は無く、敵が打つ前に身を早く入れる心である。
  • 手を出そうと思えば、必ず身が遠くなるので全身を早く敵の懐に移動する心が大切である。
  • 両者が手に届くような間合いでは、身は入りやすい。

漆膠の身ということ

  • 漆膠の身とは、自分の身を敵に付けて離れぬ心得です。
  • 敵の間合いに入る時、頭をつけ、身を付け、足を付けて強くつくのである。
  • 普通の人は顔や足は早くつけるが、身だけは後になります。
  • 敵の身へ我が身をよくつけて、少しも間を作らないようにするのが大切。

たけくらべということ

  • 丈比べということは、どのような場合でも敵に入り込むときは我が身を縮めないようにすることである。
  • 足、腰、首、を伸ばし、強く入り、敵の顔と自分の顔を並べる。身の丈を比べて勝つと思うほど丈を高くし、強く入るところが肝心である。

ねばりをかけるということ

  • 敵が打ちこんできて、自分も太刀を打ちかける時、敵が受けた場合は己の太刀を敵に付けて、粘る心で入れるとよい。ねばるとは太刀が離れないようにする心である。
  • あまり強くない心で入るべきである。
  • 敵の太刀に付いてねばりを掛け入る時は、どのようにも静かに入っても良い。

身のあたりということ

  • 体当たりは敵の際に入り込み、体を敵に当てる心である。
  • 少し顔をそらし、己の左の肩を出し、敵の胸にあてる。
  • 当てる時はわが身を思いきり強くして、勢いを付け思い切って敵の懐に入るべきである。

三つの受けの事

  • 三つの受け方のひとつ目は、敵に入り込む時、敵が打ちだす太刀を受ける際に自分の太刀で敵の目を突くようにして、敵の太刀を自分の右の方へ引き流すことである。
  • 二つ目は突け受けといって、敵が打ってくる太刀を敵の右目を突くようにして、敵の首を挟むように突き掛けて受けることです。
  • 三つ目は敵が打つ時に、短い太刀を持って入り、受ける太刀は大して気にせず、自分の左手で敵の顔を突くように入り込むことである。

おもてをさすということ

  • 面を刺すというのは敵と互角になった際、敵と太刀の間を計り、敵の顔を自分の太刀の先に付ける心を常に思うことが肝心である。
  • 敵の顔を突く心があれば、敵の顔と身は仰け反り崩れる。
  • 敵を崩すことができれば、色々勝つことができる。

心をさすということ

  • 心臓を刺すということは、戦いの打ちで上が詰まり、脇も詰まった場所で斬ることが難しい時に敵を突くことである。
  • 敵を打つ太刀を外す心は、自分の太刀の刀背を敵に見せ、切先を下げ、太刀先がゆがまないように引き取って敵の心臓を突くことである。
  • もし自分が疲弊している場合、または刀が斬れない場合などにこの技法を用いるとよい。

喝哇ということ

  • 喝哇とは、いずれも自分から打ちかけて敵を押し込む場合、敵が打ち返すときに下から敵を突き上げて返しに打つことである。
  • いずれも早い拍子で喝と打ち、喝と突き上げ、哇と打つ心である。
  • この拍子は常に打ち合いの中でよく出会う方法である。
  • 喝の方法は、切先を上げる心をもって敵を突くと思い、上げると同時に一度に打つ方法である。

はりうけということ

  • はりうけとは、敵と打ちあう際、かみ合わなくなる拍子になったとき、敵が打ってくるのを自分の太刀で叩いて打つことである。
  • 叩くという心は、さほど強く叩くわけでもなく、受けるわけでもない。敵の打ってくる太刀に応じて、打つ太刀を叩き、叩くよりも速く敵を打つことである。
  • 叩いて先手を取り、打つことに先手を取るところが肝要である。
  • 叩く拍子が少しでもあり、よく合えば、敵がどのように強く打ってきても、自分の太刀先は落ちることは無い。

多敵のくらいの事

  • 多数のくらいというのは、一人で大勢と闘うことである。
  • 自分の太刀と脇差しを抜いて左右に広く、太刀を横に広げて構える。
  • 敵が四方から襲い掛かってきても、一方に追い回す心が必要である。
  • 敵が掛かってくる前後を見分け、先に来る敵には早く戦い、大局的に、敵が打ちこんでくるのを右の太刀と左の太刀を一度に振り違えて対峙する。
  • 早く両脇に構え、敵が出てきたところを強く斬りこみ押し崩し、そのまま敵がでてきた方へ振り崩す心が要る
  • どのようにしても、敵を漁のように追い込むような心を持ち、敵の隊列が乱れ重なったとみたら、そのまま間を置かず、すかさず強く打ち込むべきである。

打ちあいの利の事

打ち合いの利とは、兵法、太刀で勝利する理合を自得することである。

一つの打ちということ

この一つの打ちという心をもって、確かに勝つところを得る事である。

直通のくらいということ

  • 直通の心とは、二天一流の実の道を受けて伝えるものである。
  • 兵法、太刀を取って人に勝つ方法を覚えるには、まず基本をもって五方の構えを知る必要が有ります。
    太刀の道を覚えて全身が自由になり、心の働きが機敏になり、道の拍子を知り、ひとりでに太刀の使い方も冴え、身も足も心のままに思うように動く。
  • 次第に道の利を得て絶えず心掛け、急ぐ心を消して、折々手に触れて徳を覚える。
  • どんな人とも打ち合い、その心を知って千里の道を一歩ずつ歩む。
  • ゆっくり進む事を心がけて、この兵法を行う事は武士の役目と心得る。

総括

水の巻では、相手との駆け引きでの、自分に有利になるための技術を紹介しています。

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