剣道は面一本! 第二章

剣道関連の本

著者 小森園正雄

出版社 体育とスポーツ社

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剣道は面一本! 小森園正雄剣道口述録 [ 小森園正雄 ]
価格:2200円(税込、送料無料) (2021/10/9時点)


お薦めの対象者

きちんとした真っすぐな剣道を身に付けたい人

本の概要

本書は、剣理に合った、正統派の剣道を身に付けるために必要な考え方を解説しています。

第二章 術理

技法の展開

技法の展開の要点は、技術的には「正しい刃筋で打突する」ことであり、精神的には「捨て身で打つ」ことである。すなわち、正しい刃筋で打突するためには直接的には手の内がある。さらには身体の備え、太刀筋、技の滑らかな始動、この前提になっている構えの諸問題が考えられる。そして、有効打突以後は「極める」「調える」という経過になってくる。捨て身で打つことの原点は、なんといっても立ち合いにおける「心気力一致」である。

姿勢

姿勢は構えの土台となる自然の体勢であって、安定感があり調和がとれていて、身体のどの部分にも無理が無く、いかなる相手の変化にも、適切かつ自由自在に対応できる永続性のあるものでないといけない。剣道を学ぶものはまず正しい姿勢を身に付けないといけない。

姿勢は技法の全般的な課題と、内面的な心気の両面に関連する剣道修行の基盤になると考えられる。

理想的な姿勢の内容を、「不動の姿勢」として表現している。不動とは他からの刺激に対しても動揺しないということに他ならない。

構え

構えとは揺るがないようにすることであって、城構えや陣構えなどは、敵からしかけられても心を動揺させないことが大切である。相手が仕掛けてきても、動揺しないで冷静に対処しうる「心の態度」とでも表現される。

水は器によって形が変わる。構えも同様にして根本的には形が無く、相手によって変化するものである。

構えは他から侵犯されないような、隙のない厳正さが大切である。

構えは無形の構えとしての「気構え」と、有形の構えとしての「身構え」よって成り立つとされているが「勝負の構え」から発達したところの気構えが十分にあるならば、必ずしも特定の形態を必要としない。心気の命ずるままに適切な活動に移りえる態勢を保持すればいいことになる。

立ち合いにおいて構えが充実していることが剣道の根幹であり、これが「立ち合い」における心気力一致といわれるものである。さらにこの五分五分の均衡をどのように打開するのかという方法が攻め合いである。

太刀筋など打突までの途中経過が適正でなければならず、そして、この前提になっているのが打ち起こしの円滑さや適性さである。さらに、これらの原点になっているのが構えである。

剣道の基本的な構えには、上段・中段・下段・八相・脇構えという五つの構えがある。これは、天地自然、宇宙万物の運行現象を表した中国を起源とする哲理で、「天地人陰陽」「木火土金水」という「陰陽五行説」によるものであるとされる。

上段の構えは、燃え盛る炎をもってすべてを焼き尽くそうとする激しい攻撃の構えで、「火の構え」「天の構え」ともいう。中段の構えは、全ての構えの基盤になっているもので、水のようによどみなく流れて、千変万化し得る構えであって、「水の構え」「人の構え」ともいう。下段の構えは、天地の地に例えて、大地のように揺るがない防御の構えで、「土の構え」「地の構え」ともいう。

八相の構えは、諸手左上段の変形とも考えられており、太刀を大木のように立てて、自分から先に技を出さないで相手の動きを観察して、相手の出方によって攻撃に転じ得る構えで、「木の構え」「陰の構え」ともいう。

脇構えは、懐に黄金をもって、必要に応じて臨機応変に技を出せる構えで「金の構え」「陽の構え」ともいう。

構えに関する諸問題

蹲踞における気力の充実は「立ち合いにおける心気力一致」に連動し、ここから初太刀の内容や勝負の契機、捨て身の技、一本の稽古の充実などにつながっています。

心気力の一致

  • 心とは精神活動の静的な面で、知覚・思慮分別・判断する動き(知覚・思慮分別・判断)である。気」とは精神活動の動的な面で、心の判断に従って意志を決行する活力(意志の決行力)である。
  • 力とは稽古を積み重ねた上にできる、太刀先まで満ちわたる技の発動力である。
  • 心気力の一致とは、「知覚・思慮分別・判断」→「意志の決行」→「技の発動」という一連の動きが即座に一致活動して有効打突に結びつき得る態勢をいう。
  • 中段に構える場合、左手親指の第一中指骨関節が臍の延長線上にくるように、左手の握りを下腹から拳約一握り前に絞り下げるように納める。
  • 気と呼吸を臍下丹田に納めて全身の活力を集中させる。そして、ややもすると浮き上がってしまう気と呼吸を左手の握りを絞り下げるように納めることで抑止する。
  • 心気力一致とは自分の身体全部が目と心であり、気であり太刀になっているということである。別な表現をすれば、調心・調息・調身によってできた乱れのない態勢であると考えられます。
    このような状態になってこそ「先をとる」ことができ。自ずと機をとらえて気剣体一致の有効打突に結びつけることができるのである。
  • 心気力一致の立ち合いにおいて自分の身体全部が目になっていることであり、これによって機をとらえて即座に打突することができる。

目の付け方

  • 「観の目」とは相手の意図や心を観察するということであり、「見の目」とは肉眼を使って相手の行動現象を見るということである。そして、お互いに見合ったときには相手の行動現象を見る目は弱くし。肉眼で見えない相手の意図や心を観察する眼は強くするということである。
  • 観の目を強くし、見の目を弱くすることを実現させるために
  • 一定の部位に固定して注視してはいけない
  • 頭上から爪先に至るまで一目で見て、あたかも遠山を望むようにする
  • 近くにいる相手を遠くに身て、遠くにいる相手を近くにいるようにする
  • 相手の太刀が目に入っても、その太刀にとらわれないようにする

  • 眼球を左右に動かさなくても、両脇が見えるような目付をする
  • 心と目の関係は心が主であって、心の状態はそのまま目にあらわれていることから、相手の目を見て、その意図や心の状態を知る事ができれば勝負の糸口をつかむことができる。
  • 相手の部分的な変化を捕らえることで、相手の意図を知ることができる。
  • 目を見る・顔を見る→心や気の変化を見る
  • 剣先と拳を見る・小手を見る→形の起こりを捕らえる
  • 肩を見る→呼吸を知る
  • 腰のあたりを見る→自分の心や意図を観察されないために、わざと相手と視線を合わせない

二つの目付の事

  • 一刀流に「二つの目付けのこと」という教えがある。これは相手全体を見る中で特に重きを置いてみることが二つあるということである。
  • 剣先と拳をみる→心の変化によって気が起こり、これが形となって最初に現れるのは「剣先」と「拳」である。
  • 有形と無形を見る→肉眼で相手の形の動きを見ると同時に、無形である相手の心や意図を観察する。
  • 相手と自分をみる→相手の虚を見ると同時に、「自分が敗れるところはここ」「勝つところはここ」と自分を顧みる。
  • さらに、目に見たことをいつまでも心にとめのこしてはいけない、留めのこすと「目の居つき」となって不覚をとることになる。次に動く相手の心をつかむことが大切である。

剣道の発声

  • 剣道では声をかける事によって、気力の充実と意志を集中させ、勇気を増し、打ち込む太刀に勢力を加える。
  • 掛け声と気力の充実は密接な関係があり、心気力が一致充満すれば自然発生的に声がかかる。すなわち、掛け声は気力の発露といえる。逆に声をかけることで心気力を一致充実させる。
  • 大きく鋭く、かつ厳しい充実した声をかける時には気勢も同じように働き、間が抜けて張りの無い声をかけた時には気勢が乘らない。
  • 修行を積み重ね修練を重ねた結果、技術上達、姿勢態度自ら正しく備わり、品位高まるにつれて、これだけ大きな声を発して気勢を導き出していたのが、大きな声を発するために費やした
    努力を内部に蓄えるようになる。
  • 身体だけの形に現れた表面的な気勢は、疲れて崩れやすいのにひかえ、内部に潜在する無形に見える気力は容易に衰える事はない。
  • 打突の瞬時に発する声は、張りのある引き締まった短い声でなければならず、そのためには、口を開けて息を全部吐き出すような息遣いであってはならない。

剣先の付け方

  • 剣先の付け方は「セイガン」が原点になっている
  • 正眼→剣先を相手の咽喉につける
  • 晴眼→両目を日・月に例えて、剣先をその中間につける
  • 青眼→剣先を相手の左の青目に付ける
  • 星眼→天の星になぞらえて剣先を額の中央に付ける
  • 臍眼→剣先を相手の臍につける
  • 剣先がセイガンの三角形の範囲内にはいれば中段の構えと言い張る
  • 剣先の付け所が星眼より上であれば上段、臍より下であれば下段と考えることができる。
  • また、剣先が正中線より右側に外れたのでは自分の構えに隙ができてしまう。
  • 剣先の付け所は、お互いのやり取りによって瞬間瞬間に変動するが、相手の身幅よりも外側に外さないことが鉄則である。

四戒

  • 「驚」は予期しないことが起こって、事の以外さに驚き心身の活動が混乱する。
  • 「憚」は事に当たって恐怖心が先に立ち、精神活動は停滞し、四股の働きを失ってしまう。
  • 「疑」は精神状態が混迷し、敏捷な判断や軽快な動きができなくなってしまう。
  • 「惑」は精神状態が混迷し、敏捷な判断や軽快な動きができなくなってしまう。

これらがあるときは、機先を制して、勝ちを得ることができなくなってしまうことが当然で、しかも自分のほうから混乱して崩れてしまう。

攻めに関する諸問題

隙を求める

  • 打突の機会を見出すことは、主体的かつ積極的に「隙を求める」ことであり、別な表現をすれば「相手の変化を求める」ということである。ここでいう、隙を求める、変化を求めるということは、狙うことではなく、あくまでも自分から積極的に相手を変化させる、崩すという働きである。
  • 隙という内容を分解してみると、一つは有形の隙、すなわち構えの外形的な隙であり、一方は無形の隙、すなわち構えの心理的な内面の隙である。
  • 形と心とは表裏一体の相関関係にあるが、形は心に影響を及ぼしており、逆に心の状態は形に現れてくる。このように、形と心の隙間には大変密接な関係がある。

気攻め

  • 「気攻め」ということはよくいうが、構えから残心までの過程で一貫して流れているのは気であり、極論すれば剣道の技法の基盤になっているのは気である。
  • 「気で先をとる」ということは、蹲踞から心気力一致の内容を持続することであり、立ち合いから気攻めの連続である。
  • 気で先をとることが「機」を捕らえることにつながる。

中心をとる

  • 「中心をとる」ということは、自分の剣先を相手の中心に付けて外さずに、相手の剣先を自分の中心から外すことである。相手の中心を崩して打突するそのこと自体が、自分の中心を維持・防御することにもなる。
  • 中心をとる根底いは、気で先をとる、相手の気をくじくなどの気の働きがなければならない。
  • 基本的には自分の剣先を相手の中心につけ、そのまま割りこんでいくことによって、相手の剣先が自分の中心から外れるのである。
  • お互いが向かい合っている間合いを二分すると、自分の手元から剣先までの空間を「我が間」、相手の手元から剣先までの空間を「彼の間」という。「我が間」は自分の陣地であり、「彼の間」は相手の陣地である。自分が「彼の間」に踏み込むこと、すなわち相手の「構えを破る」(無形の「気の壁」を破る→有形の構えの形を破る)ことによって自分が有利な状況となる。
  • 「敵より遠く我より近く」という教えがある。自分と相手との間合いは一つしかないのにもかかわらず、そこに遠近の差があることは物理的に矛盾している。お互いの気持ちの持ち方、自信の度合い、技能の差、姿勢や見方などによって遠近の差が感じられる。稽古を積み重ねて修得することである。

三殺法

「気を殺す」

気を殺すということは、自分の気力に相手が押されて、この崩れたところを攻撃することである。これによって剣を封じ込め、技が出せないようにする

「剣を殺す」

「剣を殺す」ということは、基本的には自分の剣先を相手の中心に付け、そのまま割り込んでいくことによって、相手の剣先を自分の中心から外す。剣を殺すことで相手の気力をなえさせ、技の発動力を抑えることになる。相手の剣を殺す場合は手先ではなく、体のさばきを伴わせる。

「技を殺す」

「技を殺す」ということは、相手が打とうとするところを抑えたり、自分から積極的に打ちかかっていくことによって、相手に技をほどこさせないということである。

機先を制する

機先を制すると否とでは勝負の展開が異なる。「打つぞ」「突くぞ」という、気迫で常に機先を制していることが大切であり。受ける気持ちでいると後手に回ってしまいます。

三つの先

機先を制する働きを剣道では、「先」といい、「先先の先」「先」「後の先」という「三つの先」としてとらわれている。

先先の先

相手の意志があって、打とうとした発意を認めて、形に現れない「先」を打つので、「先先の先」といい、自分からかかっていくので「懸りの先」という。技としては「出鼻の技」がある

相手からかかってきて、この働きが技として効を奏しない前に打つので「先前の先」ともいい、相手から懸り、自分も懸って先を取って打つので「対の先」ともいう。技としては「抜く」「摺り上げる」「応じ返す」などの技がこれにあたる。

後の先

相手の働きをもって、その後に自分から打つような形になっているので「後の先」という。技としては「打ち落とし技」がある

懸待一致

相手に打ち懸かることだけに心を働かせては応じることが困難である。逆に待つことだけに心を働かせたのでは、隙を捕らえて即座に打ち込むことはできない。心気を「懸る」「待つ」いずれの一方にも偏らせないことが大切である。

間合い

一足一刀の間合い

基本的な間合いであり、一歩踏めば相手を打突することができ、一歩退けば相手の打突をかわすことができる。

近い間合い

一足一刀の間合いよりも接近した間合いである。相手と接近した状態であることから、打ちやすいと感じて、ついこの間合いに入ってしまうことが多い。相手が一歩下がった時に打って初めて一本になり得る間合いである。

遠い間合い

一足一刀の間合いよりも遠い間合いである。この間合いでは、相手から打たれないが、自分からも相手を打つことができない。遠い間合いから一足一刀の間合いにどのように攻め入るかが、心理的・技術的な戦いになってくる。

真・行・草の間合い

「真の間合い」とは「生死即決の間合い」であり、技の選択の猶予などしていられない、「相手を一つも許さずに勝つ態度」である・「行の間合い」とは相手との対応の仕方による理合いの選択によって「勝負をかける間合い」であり、「相手の技をいったん咎めて勝つ態度」である。「草の間合い」とは行の間合いに入るまでに「千変万化の技を出し切る間合い」であり、教える姿勢を含んだ咎め方で、「相手の技を尽くさせて敵に従って勝つ態度である」

触刃の間合いと交刃の間合い

一歩踏み込んでも届かない間合い、すなわち「触刃の間合い」から剣先と剣先が交叉する間合い、すなわち「交刃の間合い」まで、間合いを詰める時に自分の備えをどのように堅持し、相手の変化を見極めるかという働きが大切です。

打突の機会

  • 隙、すなわち「実」を避けて「虚」を打つ。実とは精神や気力が充実して、注意が行き届いていて形の上でも堅固な状態をいう。虚はその逆である。
  • 相手を攻めあげて相手の変化するところを打つ。変化するところは相手が意識を変えるところである。
  • 相手の技の起こり頭を打つ
  • 相手が受け止めた所を打つ。受け止めた所以外は心理的にも、形の面でも虚になっているのでねらう。
  • 相手の技が尽きた所を打つ。起こりとは逆に気勢・剣勢・体勢が出し尽くされたところを打つ
  • 自分の方から形の虚を見せて、この虚を相手が打とうと意識が集中したところを打つ
  • 相手の猜疑心のあるところを打つ
  • 相手をせかせて打つ。

  • お互いの心気のやりとり、間合いのとりかた、機会の移り変わりなどが複雑に絡みあって技が発動される。
  • 技を発動する場合の根本的な考え方は「捨て身で打つ」ことである。捨て身で打つ前提になっているのが、「立ち合いにおける心気力一致」である。捨て身で打つことによって自然発生的に残心の局面へつながっていく。
  • 相手と向かい合って勝ち負けの利害を捨て去り、「打たれに行く」ことを覚悟して(犬死にではない)、捨て身で打ち込んでいけるような修練が大切である。
  • 技の発動は、知覚・思慮分別・判断・意志の決行・技の発動、という三つを一致発動させることである。

有効打突

充実した気勢

攻め合いから「確固とした意志のもとになる気の働き」が根源となって技が発動されていることが大事

適正な姿勢

上体と上体の基底部である腰の動的安定感。さらに、腰を支えている左足の備えが堅固であること

正しい刃筋

  • 打撃の方向が正しい方向に集中している
  • 直接的には、手の内、上肢の遣い方や姿勢、下肢の備えなどが重要な要素となっている

残心あるもの

  • 残心とは、有効打突後の油断のない「身構え」「気構え」であって、両者が一つのまとまりとして充実していることである。
  • 残心とは「心を残す」ことを意図した打突行動ではなく、心を残さず捨て身で打ち込むことで、自然に心が残るということであるが、自然に残る前提になっているのが捨て身の技であり、さらに、この原点になっているのが「立ち合いにおける心気力一致」である。

総括

本章は、剣道の理合いを身に付ける方法を解説しています

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