著者 小森園正雄
出版社 体育とスポーツ社
お薦めの対象者
きちんとした真っすぐな剣道を身に付けたい人
本の概要
本書は、剣理に合った、正統派の剣道を身に付けるために必要な考え方を解説しています。
第四章 技の基本
仕掛けていく技
この技は、攻めによって相手の剣先が「下がる」「上がる」「聞く」「手元が浮く」という、相手の構えの変化を捕らえて打突する技である。相手の目を見ることはもちろん、全体を見る中で相手の身体の動きや構えの変化を捕らえて、攻めからそのまま踏み込んで打突する。
変化の求め方
- 変化とは攻めによってできる相手の構えの崩れであり隙である。攻めは「気で先をとる」「中心をとる」「有利な間合いを展開する」ことに集約されるが、基本的には「相手の中心に割り込んで崩す」という、主体的・積極的な気の働きが基盤となっている。
- このような気の働きと剣先の中心への攻め崩し、間合いのやりとりなどから相手の変化を求めることになる。
- 中段に構えた時は、いつでも「攻め→打突」に出ていける気の働きを体勢が備わっていることが要点であり、特に左手の握りにその働きが期待される。攻める場合は手先だけで中心をとったり、上肢に余分な力が入ったりしないようにして「肚を据えて」左手の握りをしっかりと納めたまま間を詰めることである。
- 攻める時に相手の構えの変化を捕らえたら、そのまま踏み込んで打突する。攻めから打ちこむ過程では、自分の胸板で相手の竹刀を「へし折る」くらいの気迫が必要である。
- こうした流れでは、右足の遣い方も重要な課題になってくる。右足は攻め足であるとともに、機会を捕らえたら「打突を決断する足」でもある。
- いつでも打っていけるように左脚を堅固に備え、右足を床に滑らすように中心を攻め崩しながら、間合いの調整と打突の機会を求める。
- 機会を捕らえたらそのまま踏み込んで打突をする。
- また攻めている途中で相手がさがって間合を切ろうとしたら、すかさず左足を継ぐ。ここから場の状況によって、継いだら打突するか、再び攻めるかの展開になってくる。
二・三段の技(連続技)
- 二・三段の技には二つの考え方があるにせよ、いずれにしても一本一本の打突に全力を注ぎ、技が決まるまで連続して打突することが大切である。
- 連続して打突する過程で、自分が仕掛けた技の成否と、相手の変化や機会を見極めて技を遣う事が大切になる。間合いの違いによって足のさばき方や技の出し方に違いが出てくる。
- 太刀筋の流れとしては、縦筋の打ち(面・小手)から横筋の打ち(胴)に変化することは容易であるが、その逆は難しい。
払い技
払い技は、相手の構えに打ち込む隙が無い場合、相手の竹刀を表または裏から払いあげ、構えを崩して打突する技である。相手の剣先が自分の身体の正中線上にあって、構えが堅固の場合は、剣先が邪魔になって打っていくことができない。打っていくためには、相手の剣先を自分の身体の正中線上から外す働き、すなわち、相手の構えを崩すための「払う」働きが必要になってくる。
技を遣う時には、一つの曲線で1つの技を遣うことが鉄則である。すなわち払った竹刀がそのまま打つ竹刀となるように遣うことが大切である。払い上げる働きが打つ前の振りかぶりとなり、ここから打つ働きとなっていくのである。そのためには、手首の関節を柔らかく遣い、払う瞬間は手首のスナップを聞かせて鋭く払うようにする。
右手だけで払ったのでは払いの効果は期待できないばかりか、正しい打突には結びつきにくい。右足の滑らかな遣い方に留意しながら、左腰の備えと左手の握りを崩さないで払うようにする。さらに、相手の技の起こりや退き際の機を捕らえて払うとより効果的である。
出ばな技
打つ機会の捉え方
打つ機会としては「心が変化するところ」「発意したところ」とか、「匂い」や「気配」を感じたところ、などという教えもあるが、これは機会の捉えかたとしては大変難しい。肉眼でとらえるのは、やはり形の変化である。相手の顔の表情や構え全体の変化を観察しながら打つ機会をとらえるようにする。次のことが打つ機会の判断材料である。
- 目の輝きが強くなる
- 顔面の表情が変わる
- 握りや肩に力が入る
- 剣先や手元が動き始める
- 腰が沈みかけている
- 右足が前に動き出す。
自分の備えは「心気力の一致」の状態から、常に先をとってしかけていく充実した氣の働きがなければいけない。さらに、自分の身体全部を目にして、機会を捕らえたら捨て身で打ち込んでいくことが大切です。
引き技
引き技は、体当たりや鍔競り合い、または、これに近い間合いから隙を作って、後ろに下がりながら打つ技である。したがって、自分の方から積極的に隙を作るようにしないといけない。隙とは、体当たりや鍔競り合いから、相手の体勢や手元を崩れたところである。
崩し方
体当たりによる崩し
打突の余勢で間合いが詰まって相手に接触した瞬間、手元を下腹に納めて、自分の身体を相手にぶつけ当てるように崩す。
左右の崩し
- 自分の体を左に開きながら、左拳で相手の右ひじを横に押して崩す。
- 自分の体を右に開きながら、右拳で相手の左ひじを横に押して崩す。
前後の崩し
- 左拳で相手の左拳を上方に押し上げて崩す
- 右こぶしで相手の右こぶしを下方に押す。相手はこれに反発して押し上げて崩れる
- 相手を強く押す。相手はこれに反発して押し返して崩れる。
引き技の遣い方に関する考察
- 引き技の出し方は、左足を後ろに下げながら、竹刀を振りかぶり、右足を左足にひきつけて振り下ろして打つ。
- このような動作で打つことによって、全身的な安定感を保ちながら相手に正対して正しい刃筋で打つことができる。
その他の仕掛けていく技
- かつぎ技は相手の「虚を誘い出す」ために自分の竹刀を左肩に担ぐが、左肩に担ぐ時は逆に自分が虚となるところである。
- 巻き技と張り技は相手の構えを大きく崩して打突する技であるが、効果があれば完全に近いといっていいほど相手の構えを崩すことができる。しかし
- 巻く、払うことで打突の意図を明確に感知されることにもなりかねない。
- 巻き技を遣う場合の心理状態として、荒々しい心の状態であったりすることが多い。
- 片手技は相手の意表を突く飛び道具的な性格を持った技であることから、頻繁に出したのでは、意表を突くことにはならない。
応じていく技
- 応じていく技には、相手の仕掛けてくる技に対して、「応じながら変化する中で出す技」である。技としては、「抜き技」「摺り上げ技」「返し技」「打ち落とし技」その他の技がある。応じていく技を遣う場合は次のことが重要となってくる。
- 後手にならないように、常に先の気でなければいけない
- 相手の仕掛けてくる技の内容と機会を見極める
- 間合いの見切りと体裁きを正確にする
- 太刀筋を正確にし、応じる動作と打つ動作が一連の流れになるようにする。
- 手首を柔らかく遣い、相手の技を受け止めるようにして応じない
- 応じる場合は鎬をつかう
抜き技
- 相手の動きをよく見極めて洞察することが重要。相手の動きに対する見極めと洞察によって、自分はすでに抜く働きに移るが、相手の技が尽くされるのと同時に自分の打ちが決まることが理想的である。
- 手や上体だけではなく足さばきを正確にして抜くようにする。開いて抜く場合は開きながら抜くように心がける。
- 面抜き胴の場合は自分から打ちに行く意識を持つことが重要
- 体を開いて打つ場合は、相手の正対して打たないと正しい刃筋の打ちにはならない
- 小手抜き小手は竹刀の振幅が小さいので、これを補うために踏み込みを鋭くしながら、手首のスナップと手の内を効かせて打つようにする。
摺り上げ技
すり上げ技は、相手の技や、摺り上げた時の自分と相手の間合いや状況などを的確にとらえなければいけない。
摺り上げ方
竹刀の打突部の鎬を使って摺り上げる。機会の捉え方と相手の勢いや間合いなどによって摺り上げる箇所が違ってくるが、少なくとも打突部の中程より先の鎬で摺り上げる。摺り上げる竹刀の遣い方は、曲線的な一つの線を使う事である。摺り上げた竹刀がそのまま相手を打つ竹刀の働きになるような、柔らかい摺り上げ方でなければならない。鎬を削って相手側に伸ばすように摺り上げて打つ
返し技
- 返し技は、打ち込んできた相手の竹刀を抑えるようにして応じ、応じた反対側にすかさず返して打つ技である。
- 相手を十分にひきつけて置いて、相手の打ちが今まさに決まろうとした刹那に応じて打つ。
- 打つか打たれるか、髪の毛一本を残す際、すなわち、相手の技がまさに決まろうとする刹那まで相手を十分に引き込んで応じる。
- ここから九死に一生を得て、反撃に転じて打つ。打つか打たれるかのぎりぎりの際まで自分を持ちこたえることによって次の道が開けてくる。
応じ返しの仕方
相手の竹刀に対して、わずかな角度で、鎬を使って迎えるようにして応じる。手首に力を入れたまま相手の竹刀を受け止めると、受けっぱなしになったり返しが滑らかにできなくなる。
手首を柔らかくして「応じるー返すー打つ」流れに切れ目のない遣い方をすることが大切である。その場で応じることが無いように、相手の技の勢いや間合いなどを見極めて、最初の足をさばきながら応じ、後に続く足を素早く引き付けながら返して打つ。相手との間合いが詰まったら、体を開くことによって間合いを調整しながら打つ。
打ち落とし技
相手の竹刀の打突部の中程を、自分の竹刀の物打ちの刃部を使って打ち落とす。打ち落とす場合は腰を捻りながら手の内を効かせ、相手の竹刀を叩き落すような感じで一気に打ち落とす。
打ち落とし技の要点は、相手の気勢・剣勢・体勢が技となって尽くされたところを、「確かに外して打つ」ことにある。相手の技が尽くされたところを確実に太刀を殺して打つことから、相手が反撃に転じることができない厳しさで打ち落とすことが大切である。
総括
本章では、相手との駆け引きをしてからの技の出し方について解説しています。
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