原作: 吉川英治
作画: 井上雄彦
出版社: 講談社
掲載誌: 週刊モーニング
発表期間: 1998年 – 2015年
内容
本作品は剣豪・宮本武蔵を主人公とし、戦国末期から江戸時代の転換期、剣の時代の終わりがけを舞台にその青春期を描いています。巨大な歴史の転換点で、出世の夢が破れた武蔵が剣士として自己を確立しようともがく様、また巌流島で武蔵と決闘したことで有名な佐々木小次郎を筆頭とする、武蔵と関わる複数の武芸者が描かれています。
吉川の小説が原作だが、武蔵の実姉が描かれていなかったり、佐々木小次郎がろう者であったりと、キャラクターや物語には井上独自のアレンジが大きく加えられています。題名の「バガボンド(vagabond)」とは“放浪者”、“漂泊者”という意味です。
あらすじ
第一章 宮本武蔵編
1600年、新免武蔵は幼なじみ本位田又八に誘われ、立身出世を望んで故郷の村を出たが、関ヶ原の戦に敗れました。武蔵の幼いころの環境は愛情に乏しくて、当時は生きる意味を失いかけていました。
しかし、沢庵に自分の存在を認めてもらい、剣の道で身を立てる覚悟を決めて宮本武蔵に改名してから、天下無双を目指して流浪の旅にでます。21歳の頃に京都の吉岡道場を尋ねて、吉岡清十郎に戦いを申し込みます。
京を出てから沢庵と再会し、柳生へ行くように誘われますが断って、奈良にある槍の聖地・宝蔵院に向かいます。しかし宝蔵院二代目の胤瞬の槍術に圧倒されて一回逃げてしまいます。そこでは自分の力の無さを自覚します。その後宝蔵院の先代の胤栄に介抱されて師事して修業を積んで、再び胤瞬に挑みます。
修業を積んで精神面の弱さを克服した武蔵は紙一重で胤瞬を破ります。胤瞬の傷を治療した後、2人は再会を約束して宝蔵院を去ります。その後武蔵は柳生に向かいます。そこでは柳生四高弟や柳生石舟斎と対戦します。柳生を去った後、雲林院村の宍戸梅軒に挑戦します。武蔵は激闘の末に梅軒に勝利します。
第二章 佐々木小次郎編
時は関ヶ原の戦いから17年前へとさかのぼります。越前の片隅で生きる気力を無くし暮らすかつての剣豪・鐘巻自斎に長刀と共に拾われた赤ん坊佐々木小次郎。耳が聞こえず言葉を持たない小次郎は、剣によってのみ人との絆をつくり、最強への道を駆け上がっていきます。若いころの武蔵や伝七郎らも登場します。
第三章 地上最強編
武蔵・又八・小次郎、共に22歳となる1604年暮れから1605年正月の京に舞台は移ります。三人はそれぞれに接触し物語は動いていきます。武蔵はかつて挑んだ清十郎・伝七郎兄弟に再び挑み、死闘の末それぞれを破ります。その結果、吉岡一門を敵に回すこととなり、敵討ちにきた吉岡一門70名を討ちました。
戦いで右足を負傷した後、よく悩み抜いた後に、殺し合いに挑むことを辞めることを決断して流浪人に戻りました。旅先の村で、伊織という少年に合い、共に暮らすようになります。村では天災が起こって不作になり、武蔵が耕した田も役に立たなくて、食料不足になり死者を出しました。武蔵は小川家に食料を調達しに行き、そこで師範になり食いつなぎました。危機を乗り越えてから武蔵はたくましく成長して、伊織を連れて小倉へと向かいました。
主要登場人物
宮本武蔵

新免無二斎の息子。初名は新免 武蔵。幼いころは愛情に乏しい親の元に育てられます。体格や腕力が並外れていて、血の気が濃くて破天荒な行動をとっていたので周囲からは厄介に思われて、孤独な日々を送っていました。しかしおつうや又八などの一部の人には心を開いています。
関ヶ原から宝蔵院までは粗末な着物と木刀を身につけていましたが、宝蔵院で胤栄から服と刀、脇差を受け取りました。13歳の時に、村人の決闘の申し込みを承って、不意打ちで殺害してから周囲から嫌われてますます孤独になっていきます。
17歳の時、関ヶ原の合戦に西軍方として出陣するも敗戦します。合戦場から宮本村に戻る際に関所を破り追いかけてくる人を多く殺害しています。その後沢庵に捕まりますが、命を助けられて、宮本武蔵と改名して、剣の道において天下無双を目指します。一流の人物と出会って勝負を挑んで成長していきます。
佐々木小次郎

鐘巻自斎の弟子・佐々木佐康の息子。巌流の開祖。赤ん坊の頃に、数人の従者と共に落城した城から川をたどって逃げ出して、着いた先で鐘巻自斎に育てられます。生まれつき耳が遠くて背が高く童顔で切れ長の目をしています。女好きです。武蔵とは対照的に海の周辺で育っています。
水泳が得意で、視覚や触覚に優れていて、相手の所作や太刀を見極めたり、些細な振動から相手の位置を探知する力があります。幼いころから長剣を扱い、自斎や伊藤一刀斎に師事して強者を呼び寄せて鍛えるために巌流の名を掲げました。
そして夢想権之助や関ヶ原で武蔵に出会い、また挑戦者や東方の軍との闘いを通じて成長していきます。その後関ケ原周辺で戦いの経験を積んで成長していきます。
出世欲は無くてしばらく本阿弥邸でお世話になっていましたが、小川家直と戦い圧勝した後小倉細川家の剣術指南役として推挙されました。小次郎はこれを了承し、京から豊前に渡りました。
本位田又八

武蔵の幼馴染。武蔵や小次郎の影となり、物語に大きく関わっています。お杉の実子ではなく妾の子です。武蔵と好んでつるんでいました。戦で名を挙げようと武蔵を誘い、村を出る切っ掛けを作ったのも又八です。
最初の頃は圧倒的に強かったが、その後戦うことをあまりしなかったので、段々弱くなっていきます。急速に力をつけてくるだんだん武蔵に追い抜かれてしまいます。
偶然に本来は小次郎に手渡されるはずだった印可目録を手に入れ、それを悪用して佐々木小次郎の名を騙るようになりました。口が上手くて要領がいいが、長続きしません。自分を強く見せたりして英雄に憧れています。女が好きで買春することがあります。
お金を稼ぐことになってからは、髪型を変えて、当世風の着物を着るようになります。村をでた後も武蔵とも色々な場面で関わっているが、武蔵には気づかれないことが多いです。
普段の生活で酒と女を覚えて、人をだまして生きてきたことを自分でも恥じていて弱さも自覚しています。臆病な人間らしい性格をしています。吉岡一門との戦いを終えた武蔵と再会した後に改心し、お杉や小次郎に尽くすようになります。
沢庵宗彰

姫路城城主の池田輝政、柳生石舟斎など様々な有力な人物と人脈を持つ僧です。国から国へとを放浪しています。僧籍に身を置いているので自ら武器を持つことはないが兵法にも長けており、胆力で辻風黄平を圧倒するほど強いです。武蔵のことを気にかけ、しばしば彼に道を説いています。
石舟斎とは三玄院で宗矩をきっかけに知り合っています。また若いころ、幼少の小次郎に会い、剣の恐ろしさを小次郎の腕を剣で傷付けることで伝えています。酒を好んで口が悪いところが有ります。僧として過ちを犯した過去が有ります。
おつう
武蔵と又八の幼馴染で、彼らの想い人である美女です。捨て子だったのを寺で育てられ、又八の許婚としてお杉おばばに目をかけてもらっていました。天真爛漫を絵に描いたような性格です。礼法は身に付けていません。
孤独な生活を送る武蔵を気にかけていて想いを寄せています。美貌と快活な性格から誰からも好かれるが、又八と破談になったことでお杉からは強く逆恨みされています。
武蔵が村を出る時に、おつうも同行しようとしましたが、断られました。又八との結婚の約束を果たせなくなり、村に居づらくなったので、沢庵の勧めで柳生家に世話になります。
石舟斎の世話係として、彼の心の支えとなり、柳生の人々からも慕われるようになります。その後、柳生で武蔵と再会をしたことで、柳生の元を離れ、城太郎と共に再び武蔵を追うようになりました。
柳生のもとで石舟斎直々に護身のための武術を教わり、柳生傘の紋が入った短刀を授かっています。現在では武蔵を見つけても声すらかけず、武蔵を見守っています。
新免無二斎

武蔵の父であり師です。御前試合にて吉岡拳法を降し、時の将軍、足利義輝から「日下無双兵術者」の称号を得た武芸者です。称号を得た後は、それにとらわれてしまい地位を脅かす人を恐れるようになり武蔵にもそれが向けられています。消息不明です。攻防一体の十手術を得意とし、それは二刀流として息子の武蔵にも受け継がれています。
吉岡流
古くから京に栄えている、自らのすべてを「一(ひとつ)の太刀」に込めることを極意とする剣の名門です。吉岡清十郎が当主です。
名声を盾にして地元で威張ったところがあるうえに、清十郎に放蕩の癖があるので、住人からあまり好かれていません。武蔵とこの吉岡とは、清十郎への挑戦、伝七郎との約束、そして門弟からの憎悪によって長き死闘を繰り広げることとなります。
吉岡拳法
先代吉岡流当主です。清十郎・伝七郎の父。故人。自分に似て愚直な伝七郎ではなく清十郎を後継者に選び、遺言に「十度闘って十度勝てる相手としか闘うべからず」と遺して他界しました。「勝負において次はない」ことを門弟に叩き込みます。武蔵の父である新免無二斎に敗北を喫したことがあります。
吉岡清十郎
吉岡拳法の長男であり、吉岡憲法道場の当主。小柄で清涼な顔立ちの美男子。事実上、京最強の剣士で、剣に関しては幼少から天才と呼ばれるほどの天稟を持ち、また剣士としての非情さを兼ね備えています。小柄な身体は欠点と感じさせないところがあり、剣さばきがとても速くて常人には見極めることは難しいです。
遺言に従い吉岡家の当主となるも、自らの本能にのみ従う奔放な性格の持ち主です。酒と色を好む遊び人で、自分の家柄や名声を穢すことも多いが、影では吉岡家は伝七郎を危険から守るために、自身に有害な人を暗殺したり奔走していました。見た目から周囲からは伝七郎のほうが強いと思われています。
伝七郎との対決を控えた武蔵を襲撃しますが、激戦の末に一瞬の逡巡が隙となり、武蔵に斬られて絶命します。京で知り合った朱美のことを気に入っており、足繁く通っていました。
吉岡伝七郎
吉岡拳法の次男。長身で無骨な外見であり性格は極めて厳格で真面目です。妻子持ちです。武門の子として愚直なまでに剣に情熱的だが、非情になり切れない優しい一面を持っています。しかし、その愚直さは清十郎には無い面で、門弟に慕われる要因となっています。
遊び人の兄・清十郎が吉岡の当主であることを不愉快に思っているが、深層では兄を慕っています。最初は吉岡家の名を盾にして相手を威嚇することがありましたが、佐々木小次郎を戦った後は、覚悟や相手を斬る心構えを身につけました。
武蔵が初めて吉岡道場に乗り込んだ際、武蔵を相手に互角以上に戦いましたが、火災に包まれそうになり、再戦の機会を与えて武蔵を逃しました。蓮華王院にて武蔵と再戦して最期まで武蔵を斬るために執念を見せたが完敗しました。
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