タッチ 1

青春漫画

ジャンル: 野球漫画・ラブコメ

作者: あだち充

出版社: 小学館

掲載誌: 週刊少年サンデー

発表期間: 1981年8月5日 – 1986年11月12日


内容

本作は野球青春漫画に分類され、高校野球とラブコメディの2本を軸にしているが、基本的にはキャラクター間(達也、南、和也)の三角関係の積み重ねにより物語は展開されます。アニメも放映されていて、岩崎良美がボーカルの主題歌はとても有名な作品です。

タイトルの『タッチ』は、『ナイン』や『みゆき』を踏襲する3文字の単語かつ野球用語であることにより着想を得ています。ほとんどの作品でタイトルをひらめいた後に意味をこじつけて展開をつくるあだちは、連載のごく初期に、立ち上げ時からの担当編集者との打ち合わせで和也を死亡させる展開を決定しています。

弟の夢を兄が受け継いでいく主題から『タッチ』にバトンタッチの意味を込めることが確定されました。本作品では、1970年代まで主流だった野球漫画やスポ根ものの定石を否定、あるいはパロディ化するような面も見られます。

作品序盤の達也は、優秀な弟の和也に対して、いい加減で不真面目なキャラとして描かれています。和也の死後、達也が亡き弟とヒロインが交わした約束を引き継ぐため野球部に入り努力する形となりますが、懸命な姿を前面に押し出したり声高に主張する訳でもなく、時には練習をさぼり、時にはどこか涼しい顔をしてみせています。

達也と和也

甲子園で試合するシーンは描写されていません。あだちはデビュー当初、スポ根全盛の時代であり、編集者から泥臭さや努力する姿を描くように要求されていました。しかしあだちの絵柄は当時から柔らかみのあるもので、「汗臭く、泥臭い」といった要求は望ましいものではありませんでした。

熱血そのものを嫌っていた訳ではないものの、あだちが好んだ熱血は「当時流行していた熱血」とはまったく異質なものだったので、そのため、熱血ものの登場人物たちが「努力する姿や頑張る姿を声高にアピール」すること、あるいは1970年代後半以降に流行したラブコメディもののカップルたちが「秘めた思いを簡単に口にする」ことに野暮さを感じていました。

本作の描写について、あだちはスポ根や熱血の茶化し自体が目的ではなく、登場人物の内に秘めた思いを「言葉ではなく態度で伝える」、いわゆる「粋」な形で表現するために模索した結果だとしています。あだちの意図を「ラブコメっぽく見えても根底にあるのは熱血」だと周囲は理解しています。印象に残る名シーンも沢山登場します。

あだちは連載当初「恋愛をも犠牲にして野球にひたすら打ち込む姿がかっこいい」とされていた風潮の中で、それに逆らい「女の子のために野球をする」姿をあえて描いたと語っています。

幼馴染の三角関係

上杉達也、上杉和也は双生児です。スポーツにも勉強にも真剣に取り組む弟の和也に対して、要領はいいが何事にもいい加減な兄の達也がいます。そして隣に住む同い年の浅倉南は親しい関係にあります。

相関図

3人は物心付く前から一緒に行動している、いわば幼馴染でした。思春期を迎えて互いが互いを異性として意識し始めます。物語のスタート時、3人は中学3年生です。3人は気心の知れた家族のような間柄であったが、微妙な三角関係のまま明青学園高等部へ進みます。

ストーリー

和也の死

「甲子園につれてって」という南の幼い頃からの夢を叶えるため、1年生にして野球部のエースとして活躍する和也とマネージャーとして働く南は普段から仲良しでした。しかし南が異性として意識していたのは達也でした。達也には努力を怠ってきた自覚があり、両思いながらも南の気持ちと向き合いきれません。家族同然に育った3人の関係もまだ維持していたいと考えています。

和也

和也は南へ異性としてのアプローチを開始し、達也にも恋の戦いから逃げないように促します。この戦いで先取点をねらうために「まずは南を甲子園につれていく」と和也は2人に誓いますが、地区予選決勝に向かう途中で交通事故死してしまいます。その時の病院の室内での達也のセリフ「綺麗な顔してるだろ。死んでるんだぜ。それで。大したキズも無いのに、ちょっと当たり所が悪かっただけで、もう動かないんだぜ。嘘みたいだろ。」は印象的です。

野球部へ入部

達也はなりゆきで入部していたボクシング部で熱心に活動し、和也の亡き後こそ弟に恥じない人間になろうとします。しかし2年生ながら野球部の中心的人物である黒木らに強く勧められ、エースとして野球部へ入部することになります。

達也を和也に代わる才能の持ち主として勧誘する黒木には戸惑っていた南も、入部した達也を温かく迎えます。達也は当初多くの野球部員には歓迎されず、和也の親友で正捕手でもある松平には強く反発されます。

達也

だが達也なりの熱意が部員たちに認められ、しぶしぶバッテリーを組まされた松平とも徐々に信頼を深めます。そして達也は、南の夢を叶えるという和也の夢を、自分が代わりに叶えることを強く意識するようになります。

ライバル達との出会い

達也たちは2年生になります。達也は勢南高校の西村勇や須見工業高校の新田明男と知り合い、ライバル意識を育みます。彼らとは野球で同学年のライバルになるだけでなく、浅倉南に恋愛感情を抱く者同士としてのライバル関係も築いていきます。

それでも達也にとっての本当のライバルは一貫して和也のみです。西村は持ち球のカーブを駆使し、甲子園出場を期待されるピッチャーです。一方、新田はサードで地区最強の打者、そして亡き和也と勝負するため野球に打ち込んできた男でした。

西村

彼がいる限り須見工の甲子園出場は間違いなしと周囲で騒がれています。2年生の甲子園の地方予選では、西村が所属する勢南高校と対戦して延長戦の末敗れます。

監督によるシゴキ

達也たちは3年生となる。新田の妹である由加が明青学園に入学し、野球部のマネージャーに加わります。その頃、野球部の監督が病気で入院して、明青学園の校長は同校OBの柏葉英一郎に監督代行を任せようとします。

だが現れたのは海外出張中の兄と入れ替わった柏葉英二郎でした。柏葉は野球部への恨みを隠しながら監督代行としての強権を振っていました。南は野球部マネージャーを辞めさせられ、掛け持ちしていた新体操部の選手に専念します。野球部員は激しいシゴキで選手生命を断たれる寸前になります。

柏葉

新入部員はほとんどが部を辞めてしまいます。しかし、レギュラーは1人も去ること無く、夏の甲子園の地方予選を迎えます。達也は和也に代わって新田に勝ち、南を甲子園に連れていく強い意志を持っていて、柏葉の過酷な指導に屈することはありませんでした。

達也と南にとって高校生活最後の夏、地方大会初戦で柏葉は、1年生の佐々木を先発ピッチャーに起用して明青学園を敗退させようとしますしかしチームの結束力は固く、失点を打撃でカバーし初戦を突破します。柏葉のシゴキに耐えて力をつけた明青学園は大会を勝ち進んでいきます。また柏葉は、高校時代に甲子園へ行く夢を兄の代わりに叶えようとし、兄に疎まれて野球部から追放された過去と向き合っていきます。

須見工との決勝戦

甲子園出場をかけて決勝戦に挑む明青学園。対戦相手は新田の所属する須見工でした。接戦が続く中、達也は弟・和也の代わりを務めようとするあまり本調子が出ていません。柏葉はかつて兄弟に可能性を奪われた人間として達也の姿勢をなじります。

だが達也はその言葉で悩みを吹っ切り、達也としてのプレイに立ち戻ります。柏葉も監督として的確な指示を出し始めます。試合は延長に入り、明青は10回表に1点勝ち越し裏の守りにつきます。そして、2アウト2塁でバッターは強打者の新田でした。

新田明男

新田はその前の打席でホームランを打っており、観客も須見工の監督もこの場面では新田を敬遠するだろう、と思っていました。しかし明青ナインは、達也の力を最大限に引き出してくれるのは新田しかいないと考え、敬遠せず勝負する。新田はファウルで粘ります。

その力は互角、見ている人すべてが息をこらして勝負の行方を見つめます。達也は最後の力を使い果たして投球しようとします。瞬間、達也は自分の投球に和也が力を貸したことを感じます。その結果、新田は三振し、達也は甲子園への出場を決定させました。

エピローグ

和也の夢を叶え、2年間打ち込んだ目標を達成した達也は、進むべき道を見失いかけます。だが甲子園開会式当日、達也は河原で「上杉達也は浅倉南を愛しています」「世界中のだれよりも」と自分の気持ちを告白して、スタート地点を確認します。エピローグにて、登場人物たちの進路と、達也を擁する明青が甲子園で優勝し、南もインターハイ新体操で個人総合優勝したことが示され、物語は幕を閉じます

主要登場人物

上杉達也

上杉和也の双子の兄。弟とは対照的にものぐさでいい加減でぶっきらぼう、面倒くさがりで飄々として掴み所のない性格をしているが、マイペースではありません。愛想はないが人から親しみを持たれるせいで常に周りに男友達がおり、人付き合いの良くない原田正平も達也を親友と認めています。

心根は優しく人と争ったり人を傷つけるのを嫌い、どんな相手でも長所や性格の良い面を素直に認めます。無欲でひたむきな努力家が好きです。軟弱に見えて幼馴染みの浅倉南と、和也の絡むことにかけては頑固で譲りません。良くも悪くも人の期待に応えてしまう性です。本来は繊細で人の気持ちに敏感です。考えすぎる性質であり、プレッシャーにも弱いです。

達也

ドジで悪運の強さが取り柄です。好物はちらし寿司です。幼い頃から和也、南の兄として振る舞います。「南が喜ぶ顔を見ること」と「和也が褒められること」を自分のこと以上に嬉しいと感じ、長じてからは「ダメ兄貴」として2人の引き立て役に甘んじ、周りには言いたいように言わせていました。

逆に2人は「達也が頑張ること」が自分のことより嬉しいと感じていました。「弟に全ていいところをとられた出がらしの兄貴」とまで言われていましたが本当は潜在能力が高い本物の天才です。

南を女の子として意識するようになり、和也の気持ちを知り葛藤していたが、前述の通り譲らないことの一つとして競う道を選びます。なりゆきで始めたボクシングに本気で打ち込み、「甲子園に連れて行く」という南との約束を果たそうとしている和也を追い掛けようとしていた矢先に交通事故で亡くしてしまいます。

達也にとって和也は愛する弟で唯一無二のライバルかつ親友であり「南以上に大切な存在」です。ショックのあまり呆然自失になり、以後は心の底から笑うことが出来なくなります。また、和也の死後は比較されるのを極端に嫌がります。

浅倉南

上杉達也・和也兄弟とは赤ん坊の頃からの幼馴染です。家は上杉家の隣の喫茶店「南風」を経営しています。勉学運動ともに優れる美少女です。男子だけでなく女子からも概ね評判が良いです。

幼少期に母親が他界し、多忙な父親を手助けするように家事をこなすようになっていました。また、喫茶店を手伝っていることもあり、特に料理は上手です。和也や達也の弁当や食事を作ることも多いです。野球部の合宿では大人数の食事を手際良く作るなどしています。中学時代はバレーボール部に在籍していました。

高校1年生から3年生のはじめまでは野球部マネージャーを務めていました。幼い頃に上杉兄弟とともにテレビの甲子園中継を見て、甲子園に強く憧れるようになります。この時に真面目に取り合ってくれた和也との間に「甲子園につれていって」もらうという夢を共有します。やがて和也から思いを寄せられるようになるが、南が成長するにつれ抱くようになったもうひとつの夢は達也の「お嫁さん」になることでした。

1年生の後半からは大会直前にケガをしたキャプテンのピンチヒッターという形で新体操部にも入部します。競技会が終わるまでという約束で同じ学年の清水に説得されます。しかしその競技会でいきなりの3位入賞を果たし、新体操界の期待の新星として世間の注目を浴びます。

2年まではマネージャーと新体操を掛け持ちして両立させていましたが、3年になり代行監督の柏葉英二郎により野球部マネージャーを辞めさせられることになります。ただし野球部にも籍は残されていました。

浅倉南

そのため達也は、ある日その場にいた勢南高校のエース西村勇からヒットを打つことを条件に、南を野球部へ戻す賭けを柏葉と行い西村と対戦しますが、三球三振で南を野球部に戻すことはできませんでした。インターハイで個人優勝しています。

基本的に明るく、前向きで気丈な性格です。一生懸命物事に取り組み、人前では泣き言や弱さを見せたがらない人です。南は母親に似ています。達也と両思いであることはお互いに了解しています。幼い頃から地震が大の苦手です。達也と2人でいた時に地震に遭い、必死に抱きつき怖がる描写があります。16歳当時の身長は159cm、B82・W57・H85あります。

上杉 和也(うえすぎ かずや)

明青学園高等部1年で死去(開始当時:明青学園中等部3年)。
本作のサブ主人公。上杉達也の双子の弟。

高等部1年にして明青のエースとなります。勉強もトップクラスの成績です。「デキの良い弟」・「天才」と呼ばれるが実は努力家で秀才タイプです。達也と南が惹かれ合っているのに気付き、思いを抑えきれなくなって南に告白します。達也にも自分に対する遠慮を捨てさせようとします。恋の先取点をねらうためにまずは幼い頃の約束どおりに南を甲子園につれていくと宣言しますが、地区予選決勝に向かう途中で交通事故死します。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました