めぞん一刻

青春漫画

ジャンル: ラブコメ・青年漫画

作者: 高橋留美子

出版社: 小学館

掲載誌: ビッグコミックスピリッツ

発表号: 1980年11月号(創刊号) – 1987年19号


内容

「時計坂」という町にある「一刻館」という名の古いアパートの住人・五代裕作と、管理人としてやって来た若い未亡人・音無響子を中心としたラブストーリーです。

人よりも苦労を背負い込んでしまう世渡り下手な青年・五代裕作と、生来の鈍感さと亡き夫へ操を立てるがゆえの真面目さを合わせ持つ、美貌の管理人・音無響子の織り成す恋愛模様を描いています。

響子

周囲を取り巻く常識はずれの面々が住むおんぼろアパート「一刻館」を舞台に、著者独自のリズミカルでコミカルな展開で小気味良く描かれています。1980年代の恋愛漫画の金字塔として名高い作品です。

あらすじ

非常に古い木造アパート「一刻館」に新しい管理人、音無響子がやってきました。5号室に住む浪人生の五代裕作は可憐な彼女に初恋をします。うら若い未亡人の管理人と年下の下宿人、ふたりの淡い恋愛模様を中心に、個性的な人々が集う一刻館の賑やかな日常を描きます。

序盤

響子は夫の惣一郎を1年前に亡くし、未だ気持ちの整理がつかないでいました。一刻館の大家である義父が彼女にこの仕事を薦めたのは、少しでも寂しさが紛れればという心遣いでした。一刻館の住み込み管理人として働き始めた響子は、多忙な毎日を過ごします。

序盤

裕作の想いは知りながらも、いつも素知らぬ態度ではぐらかします。それでありながら彼がガールフレンドと親しげにしているのを見聞きするとつい、やきもちを焼いてしまいます。他のアパートの住人は2人の行方を見守りながら冷やかしあっています。一方の響子はテニススクールで知り合ったコーチの三鷹瞬からも熱心なアプローチを受けるが、一向に答えは出そうにありません。

中盤

歳月を重ねる中で彼らはそれぞれの岐路に立ちます。大学を卒業し、就職浪人を経験した裕作は周囲の人達に助けられながら保育士を目指します。犬が大の苦手だった三鷹は犬好きの見合い相手にベタ惚れされ、ひょんな勘違いが元で彼女にプロポーズするに至ります。しばらく続いた裕作―響子―三鷹の三角関係だが、徐々に響子は自らの裕作への想いに素直に向き合おうとします。

中盤

ところが、それでもすれ違いの関係は続き、裕作とのもどかしい距離を縮めて楽になりたいと考えた響子は自ら彼に体を委ねる決意まで見せるが、裕作が響子の亡き夫を意識してしまったために不調に終わります。しかしながら、すでに二人ともお互いの気持ちが確かであると自覚する段階へと達していました。一刻館で二人きりとなったその晩、ついに結ばれて共に朝を迎えた裕作に対して、ようやく響子は本当はずっと好きだったことを告白しました。

ラスト

裕作との結婚を控え、響子は惣一郎の遺品を義父へ返すことにしましたが、それは響子なりのけじめと裕作の気持ちを配慮してのことでした。遺品返却を報告するために響子は惣一郎の墓前へ赴くが、そこには偶然にも裕作がいました。

惣一郎の墓前で裕作は、出会った時に既に響子は心に深く惣一郎を刻んでおり、そんな響子を自分が好きになった、だからそれゆえに、響子の惣一郎への想いをも全て含めてずっと響子を愛していくことを誓います。

その裕作の言葉を気付かれぬ場所で耳にしていた響子は、裕作と出会えたことを亡き惣一郎は喜んでくれると確信します。改めて裕作の前に立った響子には、裕作と新しい人生を歩んでいくことに迷いはありませんでした。惣一郎の遺品について裕作は無理に返さなくて良いと言ってくれたのだが、響子は「いいの。……これでいいの。」と毅然と言い、惣一郎の墓前で改めて裕作との出会いに感謝しました。

エピローグ

結婚後も裕作と響子は一刻館で暮らしています。翌年の春には長女、春香も生まれました。しばらくは共働きで、管理人の仕事も続けるつもりでいます。裕作は早々に新居を探すつもりでいたが、引っ越し代も馬鹿にならないというのが響子の言い分です。何よりここは、ふたりが初めて出会った場所です。

時代背景・場所

1980年代の初期から後期にかけての東京を舞台にしていて丁度アメリカ経済がいきずまって輸出が滞り不況の真っ最中であるが世相は落ち着いた状態です。

バブル経済で就職の求人が多くなる前の話で五代は面接官から相手にされないくらいレベルが低い大学出身なので、中々採用されずに就職浪人を経験することになります。

舞台は架空の時計坂という街であるが、描かれる風景は西武池袋線の東久留米駅の北口の一帯がモデルではないかと指摘されています。著者は東久留米に住んでいた時期があります。

一刻館のモデルは、著者が大学生時代の中野のアパートの裏にあった、大学の寮らしい建物です。狭い道がその建物への生活道路に接道していた通路で、著者の部屋に面していましたが登場人物は全員オリジナルです。

物語は、主人公の五代と管理人の二人の視点でアパートを舞台に繰り広げられる人情ドラマであり、転居するまで他の住人の影響を強く受けざるを得ないアパートの日常を描くという内容でした。

その後、恋愛物語へと方向性を修正し、すれ違いと誤解の繰り返しが各話の基本構造となっています。当時はすでに固定電話が普及していたが、五代は経済的余裕がなく電話を引けず、当初は管理人室の電話で取り次ぎを依頼し、すぐに共用電話が備えられました。

裕作と、そのガールフレンドのこずえと響子の三角関係においてこずえから五代宛てにかかってくる電話をめぐって起こるトラブルを楽しむ悪癖を持つ住人らが取り継ぐなど、今ではまず考えられないシチュエーションから生ずる数々のすれ違いと誤解、住人たちの干渉などは、物語を面白くしている要素です。

登場人物の特徴

登場人物はそれぞれが際立った個性を持ち合わせています。「非常識のかたまり」とも言える一刻館の住人をはじめとして、アクの強いキャラクターたちが織り成す奇妙でおかしな行動の数々も、物語の重要な要素です。住人の苗字には、居住する部屋番号と同じ数字が入っています。

また、ヒロインの響子の姓は零を意味する「無」を含んでおり、旧姓は千草である。住人以外の三鷹瞬、七尾こずえ、八神いぶき、九条明日菜にも、苗字に数字が入っている。ただし作者いわく、住人の苗字と部屋番号を一致させる点は意識していたが、それ以外の登場人物に関しては偶然であるということである。

音「無」を零と捉えると登場人物が数字でつながっています。際立った個性をもつ典型的なキャラクターを使い、回話ごとにキャラクターを軸に物語を展開させる手法をとっています。

作品のきっかけ

著者が大学を卒業する直前に住んでいた中野のアパートの裏にあった学生寮らしい建物のたたずまいと雰囲気のみを舞台に引きました。

オリジナルキャラクターで、豊かではないが底辺でもない当時の人々の生活の人間模様で喜劇を描きました。当初は恋愛作品の予定ではなかったが次第に恋愛中心のストーリーになっていきました。

登場人物

一刻館の住人

五代 裕作(ごだい ゆうさく)

五代

本作の主人公。一刻館5号室の住人。善良で心優しいが、押しが弱く優柔不断、トラブルに巻き込まれやすいです。1961年5月4日生まれ。血液型はA型。両親は健在で故郷で定食屋を営んでいます。高校卒業後、浪人生として上京し、一刻館に入居します。

当初は一刻館の非常識な他の住民に馴染めず頻繁に転居を決意しては断念する日々でしたが、管理人として就任してきた音無響子に一目惚れし住み続けるようになります。1年間の浪人生活を経て三流私立大学に合格します。

大学では教育学部に在籍し、教育実習を得て大学を卒業して就職することになりますが、就職内定していた企業が倒産してしまったために就職浪人することになります。

「しいの実保育園」でアルバイトを始め、その経験から保父を目指すようになります。なお、人員削減で保育園のアルバイトを解雇された後は、キャバレーにて宣伝部部員や福利厚生部長として働きます。

2年近く専門学校に通って保育士免許を取得した後、欠員がでた「しいの実保育園」に保育士として正式に採用され、響子に求婚し、結婚して翌春に長女・春香をもうけます。

人物・エピソード

善良であるが意思が弱く流されやすい性格のため、要らぬ苦労を背負い込み、トラブルに巻き込まれることが多いです。高校時代はラグビー部に所属。

五代の住む5号室は部屋の荷物が一番少ないという理由で一刻館の住人たちが集まる宴会場にされることが多く、試験勉強中などは、度々住人に邪魔されたりからかわれたりしています。

手先が器用で、大学1年秋に成り行き上所属した人形劇サークル(最初の1回のみ)では人形を、キャバレーではホステスの子供達のために積み木等の玩具を作ったりもしています。物語当初は喫煙する描写があるが、途中から無くなります。

妄想癖があり、響子のことを考えるたびに妄想してはしばしば壁や電柱などに頭から突っ込んでいきます。響子に対しては最初は「管理人さん」と呼び、結婚後は「響子さん」と呼んでいます。

五代は最初の頃はずっと童貞のままでした。その後、五代の初体験は、坂本のおごりでソープランドに連れて行かれた時で、響子が五代に対して好きであることをなかなかはっきり言わなかったために五代は響子の愛情を確信できず、終盤にて破局寸前のトラブルに見舞うところで、響子に「あなたしか抱きたくないんです」と告白し、ラブホテルに入ってベッドインしながらも前夫の惣一郎が気になって失敗してしまうが、その後、管理人室で響子と改めて話をし、結ばれて一夜を共にした。

その後も、響子の心奥深くに残っている「惣一郎」に対し素直に「正直言って妬ましい」と惣一郎の墓前で心中を吐露するが、それすらも「響子の一部」として捉え丸ごと受け止める決意をします。

二階堂 望(にかいどう のぞみ)

一刻館2号室の住人。大学生です。五代とは別の大学に現役で合格したのを機に手違いで一刻館にやってきました。最初は一刻館をオンボロアパートと見下していましたが、響子を気に入りそのまま大学卒業まで住むこととなります。

大工仕事が趣味です。実家は裕福らしく、過干渉気味の母親に甘やかされて育っており他人の気持ちに疎く、場の空気を察するということができません。しかしマザコンではなく、母親の過干渉を内心疎ましく思っており、気楽に一人暮らしができる現状を楽しんでいます。

一刻館一のヘビースモーカーであり、くわえたばこで歩いています。入居した当時から未成年ながらタバコや酒を嗜んでいました。転入直後に一通りの住人達との騒動以降は登場機会が少なく、一刻館の住人でありながら端役で、物語の本筋にはほとんど絡みませんでした。

最終的には大学卒業まで一刻館に住み続け、響子と五代の結婚式にも参加しています。卒業後は実家のある茨城県で就職し自宅通勤となったため、相変わらずの母親の過干渉に内心辟易し、一刻館での暮らしを懐かしく感じています。

四谷(よつや)

四谷

一刻館4号室の住人で、五代の隣人です。他の住人からは「四谷さん」三鷹などからは「四谷氏」と呼ばれています。五代が一刻館に入居したその日に、4号室と5号室の間の壁に穴を開けてしまい、そこから何かと五代の私生活に干渉します。一刻館が全面的な修理が行われた時に、壁はきちんと塞がれたが、こずえが5号室に来た際にまた開けられました。

誰に対しても丁寧な言葉遣いで話しますが、その態度は慇懃無礼そのもので、五代など自分よりも弱そうな相手をおちょくることを何よりの趣味にしている模様です。

普段はスーツ姿または在宅用の着物姿ですが、虚無僧の袈裟も所有するほか、温泉旅行や裕作の実家にもスーツ姿で出かけています。八神ら女子高生が来るときと、五代の結婚式の披露宴の時は、タキシードを着用しています。冬季は外出時に帽子とトレンチコートを羽織っています。

五代、響子、三鷹、二階堂などは職業など何をしているのか疑問を懐き、尾行・調査をしたこともあったが四谷に気付かれており、単にあちこち振り回されただけで結局なにも分かりませんでした。ときどき帰省と称して数日間留守にするが帰省先も全く不明です。

趣味はのぞき、特技はたかりです。年齢・職業・経歴などは一切不明です。変人ぞろいの一刻館の住人の中でも一際目立つ存在であるが、結局何者なのか明かされることはないままです。

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