電影少女

青春漫画

作者: 桂正和

出版社: 集英社

掲載誌: 週刊少年ジャンプ

発表期間 あい編:1989年51号 – 1992年18号


あらすじ

ピュアな心の持ち主にしか見えないレンタルビデオ店において貸し出される特殊なビデオテープから実体として現れる 少女・ビデオガールと、その少女達の助けを必要としている恋に悩む少年を中心として、その少年の恋愛模様を描く。物語の中心となるビデオガールは2人登場し、本作はそのビデオガールの名前から「あい編」と「恋(れん)編」との2編構成となっています。

あい編

再生時の失敗から性格が豹変したビデオガール天野あいとの関係を中心に、心優しい高校生弄内洋太の恋愛事情を描きます。「恋編」は連載期間が短く知名度も低いため、一般的に『電影少女』として広く知られているのはほぼ「あい編」のみであり、様々なメディアミックス作品も「あい編」のみを原作としています。タイトルの「電影少女」の読みは”でんえいしょうじょ”である。

特徴

桂は本作のキーワードとして「リアル」を挙げており、このキーワードは内容・絵柄共にこの作品を特徴付けている。そしてさらには桂の作風に大きな転換期を与えています。

しかし、元来ヒーロー物やSFを好む桂は恋愛漫画の執筆に当初はあまり乗り気ではなく、せめてもの抵抗としてありがちな恋愛漫画を避けることを画策します。そして少年誌の恋愛漫画の常套手段であった「主人公の表情と間で考えや気持ちを読み取ってもらう」方法を避け、その逆として「細かくリアルに心理描写を描き出す」方法を取ることとします。こうした心理描写は女性読者にも共感を与えました。

心理描写のリアリティ追求は行動のリアリティにも繋がり、男女交際の当然の帰結としてベッドシーンなどの性描写へと繋がっていきます。しかし「キスまで」という少年誌的な制約は厳しく、桂はこの制約の中で「裸を出さずにエッチに描く」ことにより、際どくリアリティのある描写を目指していく。その結果教育現場の風紀関係の組織から多くのクレームを受けています。

電影少女

なお、こうした過激な表現は洋太と伸子との交際がきっかけとなっており、伸子の登場の前後で作品の質が違うと桂は述べています。

私見

電影少女が少年誌に掲載されていた時期は、私が小学生の頃で、他の漫画に比べて、女の子の体の露出が多くて異質な作品でした。当時はそこまでエロに惹きつけられることは無くて、自分はよく読み飛ばしていました。

女の子の体の線の描き方が極めてエロイスティックで、エロ漫画家顔負けです。それでも局部は見せないようにしてあり何とか規制を免れています。画以外でも話の展開でどきどきさせられます。物語や心理描写などの漫画としての質が高くて全体的には上品に感じるような作品です。

舞台

あい編

舞台は武蔵野に位置する東京都三鷹市。冴えないが気持ちの優しい高校生弄内洋太は同級生の美少女早川もえみに密かな恋心を抱いていた。しかし彼女は洋太の親友新舞貴志に憧れ、洋太の恋の行方は雨模様。そんな彼の前にあらわれた不思議なビデオショップ GOKURAKU は、ビデオガール天野あいとの出会いをもたらした。あいと洋太は互いに心惹かれるようになるも、ビデオガールには恋愛禁止の掟が課されており、2人の仲は一度引き裂かれる。その後、洋太は後輩の仁崎伸子と付き合うが、あいやもえみへの想いに悩まされる。

弄内 洋太(もてうち ようた)

私立貫大高等学校1年。思春期真っ盛りの冴えない高校生。幼い時に母親を亡くし、デザイナーである父親もほとんど家にいないため、一人暮らし同然。当初は男性向けファッション誌をバイブルに、モテたい一心で雑誌をそのまま参考にした生活を送っていた。当初、仲間達からは姓をひねって“モテナイヨータ”と揶揄されています。過去の失恋経験から恋愛にトラウマがあります。

自分よりも他人を思いやる過剰なぐらいの「優しさ」を持つが、それゆえ、他人への配慮から発したその場限りの「不誠実な優しさ」で、逆に相手を深く傷つけてしまうこともあった。洋太の優しさは、相手への配慮だけでなく、過去のトラウマもあって「自分が傷付きたくない」という自己防衛的側面も強く、必ずしも自分より他人への配慮を優先した結果ではありませんでした。

自分の本心を隠した、いわゆる八方美人やお為ごかしとも、弱さを優しさにすり替えたものともいえます。また他の女性とのデート中にあいの事を気にしたり、特に女性への気遣いという点においては思慮に欠ける言動も少なくなく、周囲の人間が評価するほど完璧な「優しさ」を発揮している訳ではありません。嫌なことがあるとすぐ学校を休むなど、つらい事から逃避する傾向も強く、状況に流されやすい優柔不断な性格でした。

しかし、あいとの出会いや出来事を重ねていく内に、あいに頼り切っていた自分自身に気付き、人間的に成長していきます。父親の影響を受けて絵を描くことを特技とし、後に絵本作家として才能を開花させ、「恋編」においての肩書きは絵本作家であり、副業として絵画教室を開いています。

天野 あい(あまの あい)

天野あい

洋太が GOKURAKU から借りてきたビデオテープ『なぐさめてあげる♥』(のちに『応援するぜ』に改題)より現れたビデオガール。本来はスタイル抜群、かつ女性らしい淑やかな性格・特技の持ち主のビデオガールとして再生されるはずだったのだが、洋太のビデオデッキが壊れていたため、がさつで男っぽい性格になり、胸が縮み、得意なはずの料理も下手となっています。

また、副作用としてビデオガールが本当は持ち得ないはずの『人を愛する心』を持ってしまいます。一人称は「オレ」。一度は洋太の前から消されるが、クラスメイトとして再び洋太の前に姿を現します。以前の記憶は消えていながらも、洋太に惹かれ、「洋太と結ばれれば、人間にしてやる(ただし洋太に知られれば無効)」というローレックとの約束から、再び洋太を振り向かせようとするが、いずれ消える運命である自分に、洋太が振り向きそうにも無いと分かると、自ら身を引き運命を受け入れようとしまいます。

再生時間がカウントダウンされる中、洋太の頼みを聞き入れ、彼の絵本作りを手伝うあい。最終的には、パッケージ通りの「ビデオガール・天野あい」に戻されることを不幸と感じた洋太に、デッキを壊され消えていきます。その後は光の粒子となって洋太の部屋に漂いながら「見守って」いたが、洋太が改めて作り直した絵本の完成とともに消失するかと思われました。

しかし、洋太、そしてあいを知るみんなが、彼女を想う心が奇跡を呼ぶ。光の粒子が再集結し「人間」へと生まれ変わったあい。洋太とあいは強く抱きしめ合うのだった。

自分が消える運命にあっても、自分が選択したからと洋太なり他の誰なりに精神的に頼らず、人のいいところを見つけるのが得意です。洋太への必殺技は「コバンザメ」、「フライングプレッシャー」、「あいちゃんダイナミック」など沢山あります。

早川 もえみ(はやかわ もえみ)

洋太の同級生で、顔もスタイルも良い、かわいらしい美少女。洋太は彼女に恋心を寄せているが、もえみは新舞貴志に恋をしており、その相談を、もえみの中では友人の範疇内と位置づけている洋太にしてしまいます。

物語中盤のある事件をきっかけに貴志と別れ、自分に好意を持ってくれている洋太と付き合うことにするが、それも初めは傷ついた心を寂しさや孤独感から回避させ、洋太の優しさで傷口を覆い包ませ癒し守るためでした。しかし、徐々に真摯な洋太に惹かれていき、のめり込んで行きます。あいに心を奪われている洋太の愛を得るために必死の努力をするも、洋太はあいを選び、もえみは振られてしまいます

父親の海外赴任に伴いスイスのジュネーブに行く予定で高校も退学するが、外国へ行くことは逃げることになるのではとの思いから、日本で一人暮らしをすることになりました。いつも他人に頼らず生きてきたあいに比べて、他人に頼って生きようとしていた、弱かった自分を回想する場面があります。

新舞 貴志(にいまい たかし)

洋太の親友。友人と組んでいるバンドではウッドベース担当のベーシスト。洋太とは対照的にモテることにはあまり関心がない、禁欲的かつクールな美少年。その甘いマスクもあって、もえみをはじめ多数の女子生徒を惹きつけている。ただし過去にトラウマがあるために女性に対しての関心は薄いです。気が無いながらももえみと付き合いはじめるが、後に彼女のことを意識し始めます。

しかしとある事件をきっかけとして、もえみと洋太のことを思い、自らを悪役とすることによってもえみと破局し、さらには洋太とも絶縁状態となります。その後、洋太の元を去ったあいの危機を救い、一緒に暮らし始めるが、あいの事は異性と意識していません。あいによれば、自分が持たない洋太の優しさに憧れている様子である。夏美と清水の関係をあいから知らされ、夏美が危篤に陥ったとの連絡を受けたあいと共に、夏美と清水を再会させるのに手を尽くします。後に、清水と共に岡山でバンド活動をするようになります。

仁崎 伸子(にざき のぶこ)

仁崎伸子

洋太の後輩。中学生の時に在籍していた美術部で洋太に憧れ、洋太を追って同じ高校に入学し、留年した洋太と同じクラスとなります。他の女子生徒とは好みの男のタイプが少し違います。ポジティブ思考の持ち主で、時々洋太をビックリさせる大胆発言をします。洋太に想いを告白し付き合い出すものの、洋太があいのことを想っているためにぎくしゃくし、夏休みになってから致命的なすれ違いが生じた末に、やり直しを提案した洋太を伸子が拒否する形で終幕を迎えます。ただし、伸子は洋太を嫌いになった訳でなく、あいと洋太の邪魔にならないように身を引いたのでした。

山口 夏美(やまぐち なつみ)

幼い頃、洋太の家の近くに住んでいたが、引っ越して以来音信不通となっていた少女です。伸子と別れた洋太が失意のままに乗った電車(中央線)の車内で、座っていた座席を強奪した謎の女として登場します。その後、彼氏に振られた腹いせに、新宿の路上で洋太を殴っていたヤンキー達を一気に倒し、洋太を助けます。

家出中で洋太の家に転がり込むも追い出され、公園でテント暮らしをしていたが、持病の心臓病が悪化し、入院。そして危篤状態になり、あい、洋太、清水が駆けつけるも、全員に見守られて短い生涯を終えます。格闘に長け、あいを消すため送り込まれた刺客のビデオガール・神尾まいと互角に渡り合うほどの力があるが、前述の持病が原因で長時間の無理が利きません。強気な言動とは裏腹にピュアな心を持ち、あいがビデオガールであることを知りながらも口外しなかった。疎遠状態であった洋太とあいを再会させ、息を引き取ります。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました