著者: 松井欧時朗
出版社: BAB JAPAN
ジャンル: 武道技術
初版: 2021/1/1
内容
立禅を継続することで身につく内的感覚を生かす方法、言い換えると組手の中で自分の身体の重力を上手く使いこなして、激しい動きの中でバランスを崩すことなく相手の動きに自然に応ずる技術について解説しています。
立禅とはなにか?
太気拳の最重要トレーニングの一つで、立禅を継続することで身につく要素は多岐にわたります。伝統的には気を養うトレーニングといわれていますが、他に自分の身体の重力を使って筋力をできるだけ使わずに合理的に歩いたり、走ったり対戦相手の動きを上手くさばけるようになる効果があります。
さらに私が実践してみるとそれ以上に効果があるように思われます。普段の活動での姿勢を良くして長時間活動しても疲れにくくなったり気力が充実して、肚から声を出せるようになり、声が良く通るようになります。
身体のまとまりを良くして、インナーマッスルが鍛えられて、機能的に体を動かせるようになり、指先にも力が伝わるようになって筆圧の改善も期待できます。脳神経の発達を促すとも言われていて、判断力が向上するなど、脳機能の改善にも効果があります。
第一章 武術に伝わる不思議な力
私達の身体操作では、なんでも筋力で動かしているわけではなく、自分の重力を上手く使うことで、より相手に力を伝えたり動かしたり、相手の動きや状況に対して応じることができるようになります。
自分の重力を上手く使うことは、熟練させることで向上していきます。この感覚が磨かれている人は、武術が上手い人や達人とも呼ばれています。他のスポーツや日常生活でも、この感覚に優れている人はセンスがいい人に思われたり、身のこなしがきびきびしているように見られます。
第二章 トライポッドメソッドとは?
私達が武道などで十分なパフォーマンスを発揮するためには、筋力の強さと、フォームの習熟とそれ以外の重要な要素として自分の身体の重力を使いこなす感覚が必要です。
この本で紹介するトライポッドメソッドで、ゴムまりの力を身に付けます。ゴムまりの力とは身体のどこかを押さえられたときに耐える力、押し返す力と激しく動き回るときに自分の身体のバランスを保つ力と地面とつながって時には足を手のように使ったり手を足のように使ったりする力のことを言います。
ゴムまりの力を身に付けることで、色々な競技で相手の動きに上手くさばいたりできるようになりパフォーマンスが向上します。日常生活でも疲れにくくて怪我をしにくくなり快活に体を動かすことができるようになります。
第三章 トライポッドメソッドの習得方法
トライポットメッソドで行われる5つのエキササイズ
1.正面押し
- 頭頂部から吊られているように、前後に倒れないように真っすぐに立ち、臍の下あたりで両手を組み、二人で向き合う
- 組んだ手をお互いにゆっくりと押し合ってみる
2.拳合わせ押し
- お互いに半身となり、前の拳を伸ばして拳同士を触れ合わせる
- その状態で体を前に倒さないようにして押し合い、体勢を維持する
3.胸押し
- お互いに正対し、相手の胸に片手の甲を添える
- そのまま前に倒れず、真っすぐに立ったまま相手を押していく
4.拳合わせ歩行
- 正対し、左右の腰の横に構えた両拳を合わせる。拳同士だと接触面が痛いので、片方は手のひらで受けても良い
- できるだけ体を前傾させずに、一方が前に歩いてみる
5.前腕押し
- お互いに半身に構え、前の前腕を合わせる
- お互いに押し合い、崩れないようにする
6.天地採気
- 胸の前から体の中心をとおるように、両腕を上げていく
- 深呼吸のように腕を開いていき、しゃがんでいく
- しゃがみきったら、そのまま腕を身体の中心を通し、立ち上がっていく
7.立禅
肩幅に足を広げて、両膝を少し曲げて両腕を前方に真っすぐ持ち上げて輪を作って、両手の指先の方向を向い合せます。表情をリラックスさせて安定した姿勢で静止したまま長時間維持します。呼吸は逆腹式呼吸で行います。
第四章 ゴムまりの力を考察する
ゴムまりの力を身に付けることで激しい動きの間も身体の芯が保たれるようになり、身体全体の力を上手く伝えたり、バランスのとれた体勢をキープして安定感がある身のこなしができるようになります。
第五章 意識でひきだす体の使い方
ゴムまりの力を身に付けて、普段からバランスの良い身のこなしができるようになると、それが心にも作用して、意識もバランスが良くなります。身体を深く知覚できるようになり、身体の重さを上手に活用できるようになります。体をエネルギーの塊として認識できるようになります。
力に双方向性があることを体認して、身体の使い方に活かすと瞬間的な力と速さが増し、あらゆる方向への変化の自由さが獲得されます。相手との駆け引きを意識するようになります。自分から一方的に力でねじ伏せるという考え方から、相手の力を活用するという考え方になりそれは相互に認めあう精神にもつながります。
武術的に体が強いというのは、筋力があるというだけではなく、病気になりずらい、暑さ寒さに強い、長く活動し続けられるという部分が含まれています。人を頼らないのではなく、上手に多くの人に頼って、他人と支え合うという感覚が身に付きます。
第六章 武術の組手で学ぶこと
太気拳の組手の方法はルールが緩くて、ある程度自分の裁量に任されています。そのため無理をすると怪我になるのでよく相手との力量を見極めて行うことになります。お互いに楽しむようにします。相手の兆しを読むようにします。これは普段から丁寧に繊細に動いて、経験を沢山積むことでできるようになります。
攻撃と守備を一体させます。同じような動きでも、状況によって攻撃になったり守備になったりします。頭で考えずに無心で技を出せるようにします。
相打ちの時に相手にきれいに技がかかる事が多いです。相手の中心を崩して、自分の中心を守るように攻めるようにします。自分の起こりを相手に察知されないようにします。
総括
最近の日本人に失われてきているものに、バランス感覚があります。それを身に付けるためには、この本で紹介されている、ゴムまりの力と呼ばれる重力を上手く活用する身体感覚を養う必要が有ります。昔の日本人が自然環境で動き回ることで身に付けていたこの感覚が今の社会では普段の生活では身に付きにくくなっています。
バランス感覚が無いと、どうしても落ち着いた感じが無くなって、他人の行動に不安を感じたりする機会が増えてしまいます。私は本書で扱われている内容を理解し、毎日トレーニングをすることで、バランス感覚が身について、普段も安定感がある生活ができるようになることを期待します。
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